新年度予算の成立が遅れる可能性が高まり、政府が暫定予算の編成を検討する局面に入りました。暫定予算は一見すると単なる「つなぎ」の措置に見えますが、その中身を丁寧に見ると、日本の財政運営の特徴や制度の限界が浮き彫りになります。
本稿では、暫定予算の仕組みと実務への影響、そして制度構造としての意味を整理します。
暫定予算の仕組みと位置づけ
暫定予算とは、新年度の本予算が年度開始までに成立しない場合に編成される一時的な予算です。国家運営の空白を防ぐため、必要最小限の支出に限定して計上されるのが特徴です。
今回のケースでは、衆議院で可決済みの2026年度予算案が参議院での審議に時間を要しており、憲法の規定により4月11日に自然成立する見通しとなっています。このため、4月1日から11日までの期間を対象に暫定予算を組む方向となっています。
つまり暫定予算は、制度的には「本予算成立までの時間差を埋める装置」であり、財政そのものを新たに決定するものではありません。
何が含まれ、何が含まれないのか
暫定予算の最大の特徴は、計上できる内容が限定される点にあります。
主な計上対象は以下の通りです。
・社会保障関係費(年金、医療、介護、生活保護)
・地方交付税交付金
・継続的に支出が必要な行政経費
これらは国民生活に直結するため、停止が許されない支出です。
一方で、原則として新規施策は盛り込みにくいとされています。これは、国会での十分な審議を経ていない支出を避けるという原則に基づくものです。
ただし今回の特徴として、高校無償化のような新規政策であっても、影響の大きさから例外的に計上される方向となっています。ここに暫定予算の「現実対応」の側面が表れています。
税制・企業実務への影響
今回の論点として重要なのは、税制改正関連法案との関係です。
暫定予算そのものは歳出の話ですが、実務上は以下の点が大きな影響を持ちます。
・税制改正法案の成立タイミング
・特例公債法の成立
・制度変更の施行時期
記事でも示されている通り、税制改正関連法案が年度内に成立すれば、以下のような制度変更は予定通り実施されます。
・軽油の旧暫定税率の廃止
・自動車の環境性能割の廃止
つまり、暫定予算が編成されても「税制が止まるわけではない」という点は重要です。実務的には、税制改正法案の成立が最も重要な分岐点となります。
暫定予算が生まれる構造的背景
暫定予算が必要となる背景には、日本の政治構造が強く影響しています。
今回の状況を整理すると以下の通りです。
・衆議院では与党が多数
・参議院では与党が過半数割れ
・野党が審議時間を重視
この結果、衆院では迅速に可決された一方で、参院では審議が長期化し、年度内成立が困難となりました。
さらに、憲法上の「30日ルール」により、参院の議決がなくても予算は成立する仕組みとなっています。この制度があるため、暫定予算は「制度上のズレを埋めるための緩衝装置」として機能しています。
暫定予算の本質的な意味
暫定予算を単なる異例対応として捉えると本質を見誤ります。むしろ以下の点に注目する必要があります。
第一に、国家財政の大部分は継続支出であるという現実です。
社会保障費などは毎年大きく変動するものではなく、暫定予算でもほぼ同様に支出されます。
第二に、政治と財政の時間軸が一致していないという問題です。
政治的な対立や審議の遅れがあっても、行政サービスは止められません。
第三に、制度として「止められない支出」が固定化している点です。
これは財政の硬直化とも密接に関係しています。
結論
暫定予算は単なる一時的な措置ではなく、日本の財政運営の構造を映し出す鏡のような存在です。
本予算が成立しなくても国家運営は継続される一方で、財政の大部分が既に固定化されている現実も浮かび上がります。さらに、政治的対立と制度設計のズレを埋める仕組みとして、暫定予算が不可欠な役割を担っていることも明らかです。
今後の財政を考えるうえでは、「予算が成立するかどうか」だけでなく、「どの支出が固定化されているのか」「どこに裁量が残されているのか」という視点がより重要になります。
参考
・日本経済新聞 朝刊 2026年3月24日
「暫定予算編成へ政府検討」
「4月高校無償化は予定通り」