在宅医療はなぜ広がらないのか ― 診療報酬と制度設計の壁

人生100年時代
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自宅で最期を迎えたいと考える人は多い一方で、現実には病院で亡くなるケースが多数を占めています。
このギャップの背景には、本人や家族の問題だけでなく、制度そのものの構造があります。

とりわけ重要なのが「診療報酬」です。
医療機関の行動は、この診療報酬の設計に大きく左右されます。

在宅医療が広がらない理由を考えるうえで、制度のインセンティブ構造を整理することが不可欠です。


診療報酬が医療の方向を決めている

日本の医療は公的保険制度のもとで運営されており、医療機関の収入は診療報酬によって決まります。

この診療報酬は、2年に1度改定され、国の政策意図が強く反映されます。

つまり、

・何に点数をつけるか
・どこに加算を設けるか

によって、医療の現場の行動は大きく変わります。

従来は入院医療、特に急性期医療に重点が置かれてきました。
そのため、病院に患者を集める構造が自然に形成されてきたのです。


在宅医療は「効率が悪い」構造になっている

在宅医療の最大の課題は、効率性の低さです。

医師や看護師が患者の自宅を訪問するため、

・移動時間が長い
・1日に診られる患者数が限られる
・夜間・緊急対応が必要

といった特徴があります。

一方で、診療報酬は必ずしもこれらの負担を十分に補填しているとは言えません。

結果として、

・在宅医療に積極的な医療機関が増えにくい
・人材が集まりにくい

という構造が生まれています。


「在宅復帰支援」にも報酬の壁がある

地域包括ケア病床では、在宅復帰率が評価指標として設定されています。
しかし、この仕組みにも限界があります。

在宅復帰率を高めるためには、

・リハビリ
・生活指導
・家族支援
・地域連携

といった多くの取り組みが必要です。

これらは非常に手間がかかるにもかかわらず、個別の評価が十分とは言えません。

つまり、「頑張っても報われにくい」領域が存在しているのです。


医療と介護の分断という構造問題

在宅復帰を阻む最大の壁は、医療と介護の制度が分かれている点です。

日本では、

・医療は医療保険
・介護は介護保険

と別々の制度で運営されています。

この結果、

・退院後の生活設計が分断される
・情報共有が不十分になる
・責任の所在が曖昧になる

といった問題が生じます。

病院側は「退院させるまで」、介護側は「受け入れた後」と役割が分かれ、連続性が失われやすいのです。


家族依存モデルの限界

在宅医療が広がらないもう一つの理由は、家族への依存です。

在宅療養を支える前提として、

・家族が介護を担う
・緊急時に対応できる

という構造が暗黙のうちに組み込まれています。

しかし、

・単身世帯の増加
・高齢者のみ世帯の増加
・共働きの一般化

といった社会変化により、この前提は崩れつつあります。

制度が現実の家族構造に追いついていないのです。


本当に必要なのは「生活単位」での設計

在宅医療を広げるためには、発想の転換が必要です。

従来は、

・病院
・診療所
・介護施設

といった「機関単位」で制度が設計されてきました。

しかし今後は、

・一人の生活
・一つの暮らし

を単位として設計する必要があります。

そのためには、

・医療と介護の一体的な報酬設計
・地域単位での包括的な予算管理
・多職種連携の制度化

といった仕組みが求められます。


結論

在宅医療が広がらない理由は、現場の努力不足ではありません。
制度設計そのものに課題があります。

診療報酬の構造、医療と介護の分断、家族依存モデル。
これらが複合的に作用し、在宅復帰を難しくしています。

一方で、「おうちにかえろう。病院」のような取り組みは、制度の制約の中でも新しい可能性を示しています。

これからの医療は、「どこで治すか」ではなく「どう暮らしを支えるか」が問われる時代に入っています。
その実現のためには、制度と現場の両方の変革が不可欠です。


参考

日本経済新聞「探訪 ググッと首都圏 心もケア、在宅復帰率88%」2026年3月20日朝刊
厚生労働省 診療報酬改定資料(各年度)
内閣府 高齢者の健康と生活に関する調査(最新版)

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