家計金融資産は2351兆円と過去最高を更新しました。株式や投資信託の増加により、資産が大きく膨らんだことが背景にあります。
しかし、この数字が示しているのは「日本全体が豊かになった」という単純な話ではありません。
むしろ、今回の資産増加は、家計間の格差を拡大させる側面を持っています。本稿では、資産構成の変化がどのように格差を生み出しているのかを整理します。
資産増加の恩恵は誰に帰属したのか
今回の資産増加の中心は、株式や投資信託です。
これらの資産は、保有している人にのみ恩恵が及びます。つまり、株価上昇による利益は、
- 投資をしている世帯
- もともと金融資産を多く持つ世帯
に集中します。
一方で、現預金中心の世帯は、株価上昇の恩恵をほとんど受けません。
結果として、
- 資産を持つ人はさらに増える
- 持たない人はほとんど変わらない
という構造が生まれます。
これは「資産価格上昇型の格差拡大」と呼べる現象です。
現預金中心層との分断
日本では、依然として現預金の比率が約半分を占めています。
この層にとって、今回の資産増加は必ずしも実感できるものではありません。
さらに、インフレ環境が進む中では、
- 現預金の実質価値は目減りする
- 投資資産は価格上昇で増える
という差が生じます。
つまり、何もしていなくても格差が広がる構造が生まれています。
これは従来の「所得格差」とは異なり、「資産選択による格差」という新しい局面です。
新NISAは格差を是正するのか
新NISAは、資産形成の裾野を広げることを目的とした制度です。
しかし現実には、
- 投資余力のある層が制度を最大限活用する
- 非課税メリットを享受するのは資産保有層
という傾向が見られます。
一方で、
- 投資に回す余裕がない層
- 投資経験がない層
にとっては、制度があっても利用に至らないケースが少なくありません。
このため、新NISAは格差を縮小するどころか、結果として格差を拡大させる側面も持ち得ます。
制度の設計としては中立であっても、利用状況によって結果が偏るという典型的な例です。
「金融リテラシー格差」という見えにくい要因
資産格差の背景には、金融リテラシーの差も存在します。
- 投資の基本を理解しているか
- 長期投資の重要性を認識しているか
- 短期の値動きに振り回されないか
といった点で差が生じると、投資行動そのものが変わってきます。
さらに、情報へのアクセスや教育機会の違いも影響します。
この結果、
- 投資を継続できる層
- 途中でやめてしまう層
に分かれ、長期的には資産の差が拡大していきます。
このような格差は数値に表れにくく、政策対応も難しい領域です。
結論
家計金融資産2351兆円という数字は、日本の資産が増えたことを示しています。
しかし、その増加は均等に分配されているわけではありません。
むしろ、
- 投資資産を持つ層に利益が集中し
- 現預金中心の層との間に差が生まれ
- 制度や知識の違いがその差を拡大させる
という構造が明確になりつつあります。
今後の資産形成を考える上では、「資産が増えているか」だけでなく、「誰の資産が増えているのか」という視点が不可欠です。
資産形成の普及を進めるのであれば、制度の整備だけでなく、行動や理解の格差にどう向き合うかが重要な課題となるでしょう。
参考
・日本銀行「資金循環統計(2025年10~12月期速報)」2026年3月公表
・日本経済新聞「家計の金融資産2351兆円 5.3%増、株高で最高更新」2026年3月18日夕刊
