子の看護休暇制度 ― 日本はなぜ広がらないのか

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共働き世帯が一般的になった日本社会において、子どもの急病への対応は多くの家庭にとって避けて通れない課題となっています。発熱や感染症などで子どもが保育園や学校を休まなければならない場合、親が看病のために仕事を休む必要があります。

このような状況に対応する制度として、日本では「子の看護休暇」が設けられています。育児・介護休業法に基づき、子どもの病気やけが、予防接種などの際に親が仕事を休める制度です。

しかし、この制度は必ずしも広く利用されているとは言えません。制度自体の存在は知られていても、実際に取得する人の割合は高くなく、職場によっては使いにくいという声も少なくありません。

本稿では、日本の子の看護休暇制度の仕組みと現状を整理し、その利用が広がらない背景について考えてみます。


子の看護休暇制度の仕組み

子の看護休暇は、育児・介護休業法に基づく制度として2002年に導入されました。子どもの病気やけがの看護、予防接種や健康診断などのために、親が仕事を休むことを認める制度です。

対象となる子どもの年齢は、現在では小学3年生までとなっています。制度導入当初は未就学児まででしたが、働く家庭の実情を踏まえ、対象年齢は段階的に引き上げられてきました。

取得できる日数は、子どもが1人の場合は年間5日まで、2人以上の場合は年間10日までとされています。また、1日単位だけでなく時間単位での取得も可能となっています。

この制度は、企業の規模にかかわらずすべての事業主に義務付けられているため、制度自体は多くの職場で整備されています。

しかし、法律上は「休暇を取得できる権利」が定められているものの、給与の保障については法律で義務付けられていません。そのため、無給とする企業も少なくありません。


利用率が低い理由

制度が整備されているにもかかわらず、実際の利用率は高くありません。調査によれば、子の看護休暇を取得した経験がある保護者は2割に満たないという結果も報告されています。

その理由の一つは、収入への影響です。看護休暇が無給の場合、休めばその分だけ給与が減ることになります。特に共働き家庭では家計への影響が大きく、制度があっても利用をためらうケースがあります。

もう一つの理由は、職場の雰囲気です。制度としては認められていても、実際には取得しにくい職場もあります。業務の引き継ぎが難しい職場や、人員が不足している職場では、休暇を申請すること自体に心理的な負担が生じる場合があります。

さらに、非正規雇用の問題もあります。パートや契約社員などの非正規労働者は、制度の対象であっても実際には利用しにくい場合があり、制度と現場の実態の間にギャップが生じています。


欧州諸国との制度比較

日本の制度を理解するうえで参考になるのが、欧州諸国の制度です。

例えばスウェーデンでは、子どもの病気に対応するための看護休暇制度が1970年代から整備されています。子どもの看病のための休暇は年間最大120日まで認められており、給与の一部が社会保険から支給されます。さらに、祖父母などに休暇を譲ることができる仕組みもあります。

ドイツでも子どもの看病のための休暇制度があり、子ども1人につき年間15日程度の休暇が認められています。公的健康保険に加入している場合には、給与の一定割合が保障される仕組みもあります。

こうした制度の背景には、子どもの看病は家庭だけでなく社会全体で支えるべきものだという考え方があります。親が安心して仕事を休める制度を整えることで、子育てと就労の両立を支えています。


社会保険としての制度設計

欧州の制度をみると、子どもの看病に関する休暇は単なる企業の福利厚生ではなく、社会保障制度の一部として位置づけられています。

例えば病気で働けない場合には傷病手当金が支給されますが、子どもの看病についても同様の仕組みを設けることで、親の所得を一定程度保障することが可能になります。

日本では、子どもの看護休暇は企業ごとの制度として運用されており、社会保険制度としての給付は設けられていません。この違いが制度利用の広がりにも影響している可能性があります。

今後、看護休暇の利用を促進するためには、給与補償の仕組みをどのように設計するかが重要な論点になると考えられます。


結論

子どもの急病は、多くの家庭で日常的に起こり得る出来事です。その際に親が安心して仕事を休める制度を整えることは、子育てと就労の両立を支えるうえで重要な課題です。

日本では子の看護休暇制度がすでに存在していますが、給与保障がないことや職場文化の影響などにより、制度が十分に活用されているとは言えません。

欧州諸国の制度を見ると、子どもの看病に関する休暇を社会保障制度の一部として位置づけることで、親が安心して休める環境を整えています。

今後、日本でも少子化対策や働き方改革の観点から、子の看護休暇の制度設計をどのように見直していくのかが重要な政策課題となるでしょう。


参考

日本経済新聞
子が急病、働く親の苦悩なお(2026年3月17日)

厚生労働省
育児・介護休業法に関する資料

連合
子育てと仕事の両立に関する調査

欧州各国の家族政策に関する研究資料

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