子育て支援政策は長らく、「共働き世帯の増加」を前提として設計されてきました。
保育所整備や育児休業制度の拡充は、その象徴的な政策です。
しかし近年、「誰でも通園制度」の導入に見られるように、こうした前提そのものが問い直され始めています。
本稿では、共働き前提社会の限界を整理し、今後の制度設計の方向性を考察します。
共働き前提社会の成立と政策の一貫性
日本の子育て支援政策は、主に以下の流れで展開してきました。
- 女性の就労促進(労働力確保)
- 保育所整備による待機児童対策
- 育児と就労の両立支援
この背景には、
- 少子高齢化による労働力不足
- 家計の共働き依存の進行
- 社会保障制度の維持
といった構造的要因があります。
その結果、制度設計は「親が働いていること」を前提に組み立てられてきました。
制度の前提が生む「見えない排除」
共働き前提の制度は、合理性を持つ一方で、特定の層を制度の外に置いてきました。
典型的なのは以下のようなケースです。
- 専業主婦(主夫)世帯
- 育児休業中の家庭
- 短時間就労や非正規雇用の家庭
これらの家庭は、「保育の必要性が低い」と判断され、支援の対象外とされることが多くありました。
しかし実態としては、
- 育児負担の孤立
- 社会との接点の希薄化
- 精神的・身体的な負担の蓄積
といった課題を抱えています。
つまり、制度は「就労している家庭」を支援する一方で、「育児そのもの」に対する支援は限定的であったといえます。
少子化対策としての限界
共働き支援は、労働参加の促進には寄与しましたが、少子化の改善には必ずしもつながっていません。
その理由として、以下の点が指摘できます。
① 子育てコストの増大
共働きによって世帯収入は増加しますが、
- 保育料
- 教育費
- 生活コスト
も同時に増加し、経済的負担は軽減されないケースが多くあります。
② 時間制約の強化
共働きは、
- 長時間労働
- 通勤時間
- 家事・育児の両立
といった時間的制約を強めます。
結果として、「子どもを増やす余裕がない」という状況を生み出します。
③ 制度と実態の乖離
制度上は両立可能でも、
- 職場文化
- 長時間労働慣行
- 男性の育児参加の遅れ
といった現実とのギャップが存在します。
誰でも通園制度が示す転換点
「誰でも通園制度」は、この構造に対する修正の試みといえます。
その特徴は、
- 就労要件の撤廃
- すべての家庭を対象とする支援
- 子どもの発達機会の重視
にあります。
これは、子育て支援を
- 就労支援中心 → 家庭支援中心
へと転換する可能性を持っています。
ただし、現時点では利用時間の制約や現場負担の問題から、制度の効果は限定的です。
制度設計の再構築に向けた視点
今後の制度設計では、以下の3つの視点が重要となります。
① 「就労」から「子育て」への軸足移動
これまでの制度は「働くこと」を前提としていましたが、
- 子どもを育てること自体を社会的価値と捉える
- 就労の有無にかかわらず支援する
という発想への転換が必要です。
② 多様な家族モデルへの対応
現代の家族形態は多様化しています。
- 共働き世帯
- 専業主婦世帯
- ひとり親世帯
- フリーランス・非正規雇用
これらすべてに適合する「単一モデル」は存在しません。
制度は「標準モデル」を前提とするのではなく、多様性を前提とする設計が求められます。
③ 人的資源を前提とした制度設計
制度の拡充は、
- 保育士
- 教育・福祉人材
といった人的資源に依存します。
人材確保が追いつかないまま制度だけ拡張すれば、
- サービスの質の低下
- 現場の疲弊
を招くことになります。
結論
共働き前提社会は、一定の合理性を持ちながらも、子育て支援のあり方を狭めてきました。
「誰でも通園制度」は、その前提を見直す契機となる制度ですが、現時点では過渡期にあります。
今後は、
- 就労の有無に依存しない支援
- 多様な家族への対応
- 現場負担を踏まえた制度設計
が不可欠です。
子育て支援は単なる福祉政策ではなく、社会の持続可能性に直結する基盤です。
制度の前提を問い直すことが、次の政策段階への第一歩となります。
参考
・日本経済新聞 2026年3月17日夕刊
「『誰でも通園』普及に壁」「保育士らの半数『不安』」
・こども家庭庁 子育て支援制度関連資料
・内閣府 少子化社会対策白書
・厚生労働省 保育政策関連資料
