不動産の相続税評価額は、一般の市場価格よりも低くなることが多いといわれます。特に都市部の土地では、実際の取引価格と相続税評価額の差が大きくなる場合もあります。
この差の背景には、日本独自の評価制度である「路線価制度」があります。相続税評価の土地価格は、この路線価を基礎として算定されるためです。
路線価は、一般に公示地価のおおむね8割程度を目安として設定されているといわれます。この仕組みは長年にわたり日本の税務実務の中で定着してきました。
本稿では、相続税評価が市場価格より低くなる理由を、路線価制度の設計思想から考えてみます。
路線価とは何か
路線価とは、相続税や贈与税の計算に用いる土地の価格のことです。
道路に面する土地について、その道路ごとに1平方メートル当たりの価格が定められており、これを基礎として土地の評価額を計算します。
例えば、ある道路の路線価が1平方メートル当たり50万円である場合、その道路に面する100平方メートルの土地の基本的な評価額は次のようになります。
路線価 × 地積
これに形状補正や奥行補正などの各種補正を加えて最終的な評価額が算定されます。
このように路線価は、土地評価の基準となる重要な指標です。
公示地価との関係
路線価は、国が公表する公示地価や地価調査価格を参考にして設定されます。
一般には、路線価は公示地価のおおむね8割程度となるように設定されていると説明されます。この割合は制度上明確に定められているわけではありませんが、実務上の目安として広く知られています。
では、なぜ市場価格と同じ水準ではなく、一定程度低い水準で設定されているのでしょうか。
その理由は、税務実務の安定性にあります。
安全性を考慮した評価
土地価格は市場の動きによって大きく変動します。
もし相続税評価額を市場価格と完全に一致させようとすると、評価のばらつきが大きくなり、納税者間の公平性を確保することが難しくなります。
また、相続税の評価では、個別の不動産の詳細な市場調査を行うことは実務上困難です。
そのため、一定の安全性を考慮した評価水準として、公示地価よりも低い価格を基準とする考え方が採用されてきました。
この仕組みによって、評価のばらつきを抑え、課税実務の安定性を確保することができます。
課税実務の簡便性
相続税は、多くの納税者が関係する税目です。土地評価を個別の市場価格に合わせて詳細に算定することは、実務上大きな負担となります。
そのため、路線価方式では全国の主要な道路についてあらかじめ価格を設定し、それを基礎として土地の評価を行う仕組みが採られています。
この方法により、土地評価を一定のルールに基づいて計算することが可能になります。
課税実務においては、このような簡便性も重要な要素です。
評価制度と市場価格
路線価制度は、相続税評価の統一性と簡便性を確保するうえで大きな役割を果たしています。
しかし、市場価格との間に差が生じることもあります。特に不動産価格が大きく変動する局面では、この差が拡大する場合があります。
近年の都市部では不動産価格の上昇が続いており、相続税評価額と市場価格の差が話題になることもあります。
ただし、この差は制度の欠陥というよりも、評価制度の設計思想から生じるものと考えることができます。
評価制度の役割
税制における評価制度の目的は、個々の資産の市場価格を完全に再現することではありません。
重要なのは、納税者に対して公平な基準を適用し、安定した課税を行うことです。
そのため、相続税評価では市場価格とは異なる評価方法が採用されています。
路線価制度は、そのような課税実務の要請に応える仕組みとして設計されています。
結論
相続税評価が市場価格より低くなることがあるのは、路線価制度の設計によるものです。
路線価は公示地価を参考にしながらも、課税実務の安定性や評価のばらつきを抑える観点から、一定程度低い水準で設定されています。
この制度は、全国の土地を統一的な基準で評価するための仕組みとして長く運用されてきました。
不動産評価を理解するためには、市場価格と税務上の評価という二つの視点を区別して考えることが重要です。
参考
税のしるべ
品川芳宣「続・傍流の正論~税相を斬る 第82回 最判にも疑義③『空室』の価値」
2026年3月9日号
国税庁
財産評価基本通達
国土交通省
地価公示制度
