法人税の税務調査は、かつて多くの企業にとって定期的に訪れる出来事でした。数年ごとに税務署が訪れ、帳簿や資料を確認するという形が一般的だったからです。
しかし近年、税務調査の実施件数は長期的に減少しています。企業の税務担当者の中には、以前に比べて調査の頻度が明らかに減ったと感じている人も多いでしょう。
この変化の背景には、単なる人員不足だけではなく、国税庁の調査方針そのものの変化があります。現在の税務行政は、すべての企業を均等に調査する方式から、リスクの高い納税者を重点的に調査する方式へと移行しています。
本稿では、この新しい調査手法である「リスクベース調査」の考え方を整理します。
税務調査件数の長期的な減少
税務調査の件数は長期的に減少傾向にあります。
法人税の実地調査件数は、かつて年間十万件規模で実施されていました。しかし現在はそれよりも大きく減少しています。
この背景にはいくつかの要因があります。
まず一つは、企業数の増加です。法人の数は増え続けており、すべての企業を実地調査で確認することは現実的ではありません。
二つ目は、企業活動の高度化です。企業の取引は国際化し、金融取引やグループ取引も複雑化しています。調査には高度な専門知識が必要となり、一件あたりの調査にかかる時間も長くなっています。
三つ目は、税務行政の効率化です。限られた人員で効果的に税務調査を行うためには、調査対象を選別する必要があります。
こうした事情から、税務調査は量から質へと重点が移っています。
リスクベース調査とは何か
現在の税務行政の中心にある考え方が「リスクベース調査」です。
これは、すべての納税者を均等に調査するのではなく、税務リスクが高いと判断される企業を重点的に調査するという方法です。
税務リスクとは、簡単にいえば次のような可能性を意味します。
・申告内容に誤りがある可能性
・税法解釈に争いがある可能性
・所得の過少申告がある可能性
国税庁は様々な情報を分析し、リスクの高い納税者を抽出します。
そして、その企業に対して重点的に調査を行うことで、税務行政の効率を高める仕組みです。
データ分析の活用
リスクベース調査を支えているのがデータ分析です。
国税庁は膨大な税務データを保有しています。法人税申告書、消費税申告書、源泉所得税の情報など、企業活動に関する様々なデータが集まっています。
これらの情報を分析することで、異常値や不自然な動きを把握することが可能になります。
例えば次のような視点です。
・同業他社と比較した利益率
・売上高と経費のバランス
・過年度との大きな変動
・グループ企業間取引の状況
こうした分析により、税務リスクの高い企業を絞り込むことができます。
データ分析は税務行政の重要なインフラとなりつつあります。
実地調査以外の手法
税務調査の手法も多様化しています。
従来の税務調査は、調査官が企業を訪問する実地調査が中心でした。しかし現在は、実地調査以外の方法も活用されています。
例えば次のような手法です。
・文書照会
・電話による確認
・資料提出依頼
・電子データの分析
これらの方法により、実地調査を行わなくても一定の確認を行うことが可能になります。
企業側としても、短期間で確認が終了するケースが増えています。
自主点検の重要性
こうした調査手法の変化の中で重要になっているのが、企業自身による自主点検です。
国税庁は、企業が申告前に自主的なチェックを行うことを強く促しています。
今回公表された申告書確認表や要注意項目確認表も、その一環として整備されたものです。
企業が次のような体制を整えることで、税務リスクは大きく低減します。
・申告前のチェック体制
・決算段階での税務レビュー
・税務論点の事前整理
税務調査の形が変わる中で、企業の税務管理体制の重要性はむしろ高まっているといえます。
結論
税務調査の件数が減少している背景には、国税庁の調査方針の変化があります。
現在の税務行政は、すべての企業を調査する方式から、リスクの高い企業を重点的に調査する方式へと移行しています。
この「リスクベース調査」は、データ分析を活用した効率的な税務行政の仕組みです。
企業にとって重要なのは、税務調査を受けないことではなく、税務リスクを適切に管理することです。
申告前の自主点検や内部レビューを通じて適正申告を確保することが、これからの税務管理の基本になるといえるでしょう。
参考
税のしるべ
2026年3月9日
調査課所管法人向け情報を更新、新たな申告書確認表などを公表
国税庁
調査課所管法人向け「申告書の自主点検と税務上の自主監査」に関する情報
