日本国債の金利を説明する際に、必ず登場する概念が「イールドカーブ」です。
ニュースでは「イールドカーブが急になった」「長期金利が上昇した」などの表現が頻繁に使われますが、その仕組みは意外と体系的に説明されることが少ない分野でもあります。
国債は年限によって金利が異なります。
この年限と金利の関係を整理したものがイールドカーブです。本稿では、国債市場の基本的な仕組みを整理しながら、イールドカーブがどのように決まるのかを解説します。
国債の年限と金利の関係
国債にはさまざまな年限があります。
1年、2年、5年、10年、20年、30年など、満期までの期間ごとに異なる債券が発行されています。
例えば、財務省が10年国債を発行した場合でも、その国債は時間の経過とともに残存期間が短くなります。
発行から1年後には9年債となり、さらに時間が経てば8年債になります。
市場にはこのような国債が多数存在しており、それぞれの年限ごとに市場金利が形成されています。
この関係をグラフで表すと、
・横軸:国債の年限
・縦軸:金利
という形になります。
このとき一般的には、年限が長くなるほど金利が高くなる右肩上がりの曲線が描かれます。
この曲線をイールドカーブ(利回り曲線)と呼びます。
長期金利は将来の短期金利の予測
長期金利を理解するうえで重要な考え方が、将来の短期金利の予測です。
市場参加者は、長期金利を単なる現在の金利としてではなく、将来の短期金利の見通しの集約として捉えています。
具体例で考えてみます。
仮に現在の1年金利が1%であり、投資家が「1年後の1年金利は3%になる」と予測しているとします。
この場合、100円を投資すると
・今年:1円の利息
・来年:3円の利息
が得られると予測されることになります。
ここで投資家には2つの投資方法があります。
①1年債を購入し、1年後にもう一度1年債を購入する
②最初から2年債を購入する
もし①と②の投資が経済的に同じであるならば、2年債の金利は2%程度になります。
なぜなら
・1年目:1%
・2年目:3%
の平均が2%だからです。
つまり、長期金利は将来の短期金利の予測の平均で決まるという考え方が導かれます。
タームプレミアムという考え方
ただし、実際の市場では単純に平均で決まるわけではありません。
長期の債券には、特有のリスクが存在するからです。
例えば、10年債を保有する場合、投資家は10年間にわたって金利変動のリスクを負うことになります。
金利が上昇すれば、債券価格は下落するためです。
このようなリスクを負う以上、投資家は追加的なリターンを要求します。
この追加的な利回りがタームプレミアム(期間プレミアム)です。
この考え方を整理すると、
長期金利 = 将来の短期金利の平均 + タームプレミアム
という関係になります。
つまり、長期金利は単なる予想平均ではなく、リスクに対する補償が上乗せされた金利であるということです。
需給も長期金利を動かす
近年の国債市場では、この理論に加えて需給要因も重視されています。
国債は金融機関や年金基金、生命保険会社などが主要な投資主体です。
特に生命保険会社は、長期の保険契約と資産の期間を合わせるために、超長期国債を購入する傾向があります。
しかし、こうした機関投資家の投資姿勢が変化すると、市場の需給も変わります。
例えば、生命保険会社の超長期債の購入意欲が弱まると、
・超長期国債の需要が減る
・価格が下がる
・金利が上昇する
という動きが生じます。
このように、国債市場では将来の金利予測だけでなく、投資家の需要と供給のバランスも重要な役割を果たしています。
最近の学術研究でも、長期金利を説明する際には、期待金利とタームプレミアムに加えて、こうした需給要因を組み込むモデルが提案されています。
結論
イールドカーブは単なる金利のグラフではありません。
その背後には、金融市場の期待やリスク評価、そして需給関係が複雑に織り込まれています。
整理すると、長期金利は次の三つの要素で理解することができます。
第一に、将来の短期金利に関する市場の予測。
第二に、長期投資に伴うリスクへの補償であるタームプレミアム。
第三に、金融機関などによる国債の需給バランスです。
イールドカーブはこれらの要因が市場で集約された結果として形成されます。
そのため、イールドカーブの変化を読むことは、金融市場が将来の経済や金融政策をどのように見ているのかを理解する手がかりになります。
参考
日本経済新聞「やさしい経済学 初歩から学ぶ日本国債(8) イールドカーブの決まり方」2026年3月10日
服部孝洋(東京大学特任准教授)
