米国の追加関税をめぐる状況が大きく動いています。
米連邦最高裁は2026年2月、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税やフェンタニル関税を無効と判断しました。
しかし、問題はここからです。
既に徴収された巨額の関税は返還されるのか。
そして企業は何をすべきなのか。
本稿では、還付の法的枠組みと企業実務の対応を整理します。
最高裁判決の意味と不透明な還付問題
2026年2月20日、米連邦最高裁はIEEPAに基づく関税措置を無効と判断しました。これにより、24日以降は同法に基づく関税は課されなくなりました。
対象となる関税は、推計で1,750億ドル超とされています。日本円にして約27兆円規模です。
しかし最高裁は、徴収済み関税を自動的に還付すべきかどうかについては判断を示しませんでした。
つまり、
・違憲(無効)判断は出た
・しかし返金の道筋は示されていない
という極めて不安定な状態にあります。
さらにトランプ大統領は「5年は法廷で争うことになる」と発言し、無条件の還付に応じない姿勢を示唆しています。企業が「待てば戻る」と楽観できる状況ではありません。
企業に求められる3つの実務対応
還付を求める企業には、大きく3つの対応が必要になります。
1. 税関への異議申し立て
米国では通関後も一定期間、修正申告や異議申し立てが可能です。
・輸入後314日以内に税額確定
・確定後180日以内に異議申し立て
この期限管理は極めて重要です。
期限を徒過すれば、還付の可能性を自ら閉ざすことになります。
2. 訴訟提起
米国際貿易裁判所(CIT)は、関税確定後であっても遡って還付を命じる権限を持つと判断しています。
すでに多くの企業が提訴しており、フェデックスは関税損失が最大10億ドルに達する可能性があるとして返還を求めています。
日本企業でも、
・豊田通商
・住友化学
・旭化成
などが訴訟または還付請求の検討を進めています。
訴訟にはコストや政治的リスクが伴いますが、還付実現の有効な手段になり得ます。
3. 情報収集とデータ整備
実務上、最も重要なのがここです。
・過去の輸入データの取得
・フォワーダーからの通関記録収集
・支払済み関税額の集計
・対象期間の整理
これらを本社と米国法人が連携して進める必要があります。
還付制度の詳細が数カ月〜数年後に明確化された場合、準備している企業とそうでない企業では対応力に大きな差が生じます。
代替関税という新たな不確実性
さらに状況を複雑にしているのが、150日限定で発動された10%の代替関税です。今後15%へ引き上げる方針も示されています。
企業は同時に、
・還付が実現するか
・新関税のコスト負担
・顧客からの値下げ要求への対応
という三重の課題を抱えています。
「違憲だから終わり」ではなく、政策手法を変えて関税を維持する可能性も否定できません。
経営・財務戦略としての位置づけ
この問題は単なる税務論点ではありません。
・キャッシュフロー管理
・引当金計上の妥当性
・価格転嫁戦略
・訴訟リスク管理
といった経営判断と直結します。
特に会計上は、還付の蓋然性が不確実な以上、資産計上の可否や開示対応が問われます。
企業にとっては、法務・税務・財務が横断的に連携するテーマです。
結論
今回の最高裁判決は、関税政策に対する強い司法判断でした。しかし還付問題は未解決のままです。
企業にとって重要なのは、
・期限管理を徹底すること
・訴訟という選択肢を排除しないこと
・データ整備を今すぐ始めること
何もしないことが最大のリスクになり得ます。
不確実性の高い局面では、「法的対応」と「実務準備」を両輪で進める姿勢が、結果を左右します。
参考
日本経済新聞(2026年2月25日朝刊)
「米関税『違憲』、還付される?」
「返還求め法的措置拡大」

