令和8年度税制改正法案の提出が例年より遅れる見通しとなり、「年度内成立」が現実的な論点として意識されています。その際に必ず浮上するのが「日切れ法案」という言葉です。
しかし、日切れ法案は制度用語として条文に明示されているものではなく、実務上の通称です。本稿では、日切れ法案の意味と役割、そして実務への影響を整理します。
日切れ法案とは何か
日切れ法案とは、3月31日で適用期限が終了する税制措置について、その期限を暫定的に延長するための法案を指します。
税制改正は原則として4月1日施行を前提に設計されています。そのため、既存の特例措置には「令和○年3月31日まで」といった適用期限が定められているものが多く存在します。
もし本体の税制改正法案が年度内に成立しなければ、次のような問題が生じます。
- 4月1日以降、特例措置が失効してしまう
- 新制度が施行できない
- 法律上の空白期間が発生する可能性がある
この空白を防ぐために、期限を一時的に延長するのが日切れ法案の役割です。
なぜ日切れ法案が必要になるのか
税制改正法案は、予算案と一体的に審議されることが多く、政治日程の影響を強く受けます。衆院解散や選挙が重なれば、提出や審議が遅れることもあります。
しかし、企業の決算や個人の所得計算は4月1日から始まる新年度を前提に進みます。税制は待ってくれません。
例えば、以下のような措置が期限切れを迎えると実務に直結します。
- 中小企業向け設備投資減税
- 住宅ローン控除の特例
- 登録免許税や不動産取得税の軽減措置
- 研究開発税制の上乗せ措置
これらが3月末で失効すれば、4月以降の契約や取得に対して突然税負担が増加することになります。政策の連続性が失われ、市場にも混乱が生じます。
日切れ法案は、この制度的な断絶を防ぐための「つなぎ」の仕組みといえます。
実務への影響と留意点
1.契約日・取得日の判定
適用期限が延長されるか否かは、契約日や取得日によって税額が変わる可能性があります。特に不動産や設備投資では、3月中の駆け込み契約が発生しやすくなります。
税理士や経理担当者は、法案成立のタイミングと条文の附則を正確に確認する必要があります。
2.申告・見積もりへの影響
法人税の見積実効税率や繰延税金資産の計算は、将来税率や特例の存続を前提に行います。日切れ法案の動向によっては、決算数値の前提が揺らぐことがあります。
監査対応や注記の記載内容にも影響する可能性があります。
3.システム改修のタイミング
税率変更や控除制度の改廃が絡む場合、会計システムや販売管理システムの改修が必要になります。日切れ法案により延長されるのか、それとも改正が施行されるのかによって、改修内容が変わります。
実務では「成立見込み」に基づいて準備を進めざるを得ない局面もありますが、最終的には公布日と施行日が基準になります。
日切れ法案の限界
日切れ法案はあくまで暫定措置です。政策内容そのものを確定させるものではありません。
そのため、
- 延長後に内容が変更される可能性がある
- 遡及適用が行われる場合がある
- 政策の方向性が不透明になる
といった不安定さを内包します。
税制の安定性は経済活動の前提条件です。毎年のように期限延長が繰り返される制度は、本来は恒久化または整理が検討されるべき対象ともいえます。
結論
日切れ法案とは、税制改正法案の成立が間に合わない場合に、期限切れとなる特例措置を一時的に延長するための暫定法案です。
制度の空白を防ぐ重要な役割を担う一方で、政策の不確実性を生む側面もあります。
令和8年度税制改正をめぐる国会審議の行方は、単なる政治日程の問題ではありません。適用期限の扱いは企業活動や個人の意思決定に直結します。
今後の審議状況を注視しつつ、公布日・施行日・附則規定を正確に確認することが、実務対応の基本となります。
参考
・税のしるべ「8年度税制改正法案等は例年より提出が1月ほど遅れるも年度内成立目指す」2026年2月23日
・令和8年度税制改正大綱(与党税制調査会、2025年12月公表)
・過去の税制改正関連法附則規定(各年度税制改正法)
