相互関税「違憲」判決の本質──米国の権力分立と関税権限の線引き

FP

米連邦最高裁が、トランプ政権の相互関税などを違憲と判断しました。
関税政策はしばしば「経済政策」として語られますが、今回の判決の核心は経済ではなく、米国の統治の仕組みそのものにあります。

トランプ氏は判決直後に、別の法律を根拠に一律10%関税を150日間限定で発動すると表明しました。
この動きは、判決が「関税をやめろ」と命じたのではなく、「どの権限で、どの手続きで関税を課すのか」を厳密に問うたことを示しています。

本稿では、今回の違憲判決が何を否定し、何を残したのかを整理します。


1.最高裁が言ったことは「関税権限は議会にある」

米国憲法は、関税を課す権限を連邦議会に与えています。
今回の訴訟で争点となったのは、大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に、議会の承認なしに関税を発動できるかどうかでした。

最高裁は、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと結論づけました。
緊急事態に経済取引を規制できるとしても、それが「関税」という形で広範な課税権限に直結するわけではない、という線引きです。

つまり、判決の骨格は、政策の是非よりも「権限の所在」にあります。


2.なぜ6対3で割れたのか、なぜ保守派も賛成したのか

違憲判断は9人中6人の多数意見でした。
注目点は、ロバーツ長官を含む保守派の一部も違憲側に回ったことです。

ここには、党派性よりも「法の文言」と「権力分立」を重視する最高裁の姿勢が表れています。
特に、曖昧な法律解釈によって大統領権限が拡張されることへの警戒感が強い、という見方が示されています。

今回の判決は、トランプ政権に対する判断であると同時に、将来の政権にも効く「ルールの再確認」でもあります。


3.判決が残したもの──他の法律による関税は可能

誤解しやすい点ですが、最高裁は「すべての追加関税」を否定したわけではありません。
否定したのは、IEEPAを根拠にした関税発動です。

現にトランプ氏は、1974年通商法122条に基づき、一律10%の関税を発動すると表明しました。
122条は、深刻な国際収支赤字への対応として、150日間限定で最大15%まで課せる仕組みです。

また、政権は通商法301条、通商拡大法232条といった別の法的手段も示唆しています。
ただし、これらは調査期間など手続き上の制約があり、相互関税のような大規模・即時の関税は難しくなる、という見方が出ています。

要するに、最高裁は「関税カードそのもの」を奪ったのではなく、「抜け道のような迅速発動」を塞いだ、という構図です。


4.次の焦点は「徴収済み関税の還付」だが、長期化し得る

判決は、徴収済みの関税を還付すべきかどうかを明確に判断していません。
トランプ氏は還付に応じない姿勢を示し、法廷で争う考えを示しています。

徴収済みの金額は巨額とされ、還付が実現すれば財政への影響や混乱も懸念されています。
反対意見では、巨額還付が財務省に重大な影響を与える可能性が指摘されています。

企業側から見れば、違憲判決で「筋」は通ったとしても、キャッシュが戻るかどうかは別問題になり得ます。
この不確実性が、投資や価格設定の判断を難しくします。


5.日本にとっての含意──合意の前提は揺れても、交渉は続く

日本は相互関税の引き下げなどを前提に、対米投融資の枠組みを進めてきました。
違憲判決により、合意の前提が揺らぐ面はあります。

ただし、米側が別の法律で関税を再構成する可能性がある以上、「合意が無意味になった」と単純に言い切ることもできません。
日本側としては、関税だけでなく経済安全保障や対中抑止といった要素も含めて、関係強化を優先する判断が示されています。

関税は法的に制約されても、交渉の圧力が消えるとは限らない、という現実があります。


結論

今回の違憲判決の本質は、関税政策の是非ではなく、米国の権力分立に基づく「関税権限の線引き」です。
最高裁はIEEPAを根拠とする関税発動を否定し、曖昧な権限拡大に歯止めをかけました。

一方で、122条、301条、232条など別の法的手段による関税は残っています。
したがって、関税リスクが消えたのではなく、「形を変えつつ続く」可能性が高い局面に入ったと整理できます。

企業にとっては、関税率の上下よりも、法的枠組みの切り替えに伴う不確実性がリスクになります。
判決は終点ではなく、関税政策が「次の根拠法」に移行する起点になり得ます。


参考

日本経済新聞
・米代替関税、24日から10% 最高裁が相互関税に違憲判決(2026年2月22日朝刊)
・米最高裁、野放図な権限拡大に警鐘(2026年2月22日朝刊)
・EU、米関税の影響探る(2026年2月22日朝刊)
・トランプ関税 米貿易赤字の縮小めざす(2026年2月22日朝刊)

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