2026年2月19日付の日本経済新聞「私見卓見」において、法政大学デザイン工学部非常勤講師の田岡賢輔氏が、中小企業のDX推進には行政による新たな支援制度が不可欠であると提言しています。
日本の労働生産性向上にはDXが必要だと長年いわれてきました。大企業では業務の自動化やデータ活用が進み、一定の成果も出始めています。しかし中小企業、とりわけ小規模企業では、DXがほとんど進んでいないのが現実です。
本稿では、なぜ中小企業のDXが進まないのか、その構造的な理由を整理します。
検討段階にも至らない企業が多数
調査によれば、約6割の中小企業がDXの取り組みを検討できていないとされています。従業員20人以下の小規模企業では、その割合はさらに高くなります。
課題として挙げられるのは、次のような点です。
・予算の確保が難しい
・効果が見えない
・何から始めればよいかわからない
・IT人材が不足している
これらは単なる意欲不足ではありません。経営資源が限られる中小企業にとっては、合理的な判断の結果でもあります。
DX=システム導入という誤解
DXという言葉が広く使われるようになりましたが、多くの場合、高額なシステム導入や専門IT人材の確保といったイメージが先行しています。
しかし、小規模企業にとって数百万円規模の投資は大きな決断です。しかも、導入後に十分活用できなければ費用対効果は見込めません。
補助金制度も存在しますが、システムを導入すること自体が目的化してしまうケースもあります。結果として、現場の業務改善につながらないまま終わることも少なくありません。
DXの前に必要な「情報の把握」
田岡氏が提案するのは、まず社内の情報を徹底的に整理することです。
社内には、さまざまな情報が存在します。
・紙の書類
・表計算ソフトのデータ
・会計ソフトや販売管理ソフトのデータ
・担当者の頭の中にしかない情報
これらについて、
・何の情報か
・どの形式で存在しているか
・誰が入力し、誰が利用しているか
・どこに保管されているか
・どの程度共有されているか
を把握し整理することが、DXの土台になります。
これは高度なIT施策ではなく、経営管理の基本動作といえます。
属人化と二重管理が生産性を下げる
多くの中小企業では、次のような状態が見られます。
・同じ情報を複数の場所に入力している
・紙とデジタルが混在している
・特定の担当者しか内容を把握していない
・社長しか分からない情報が多い
こうした状態では、どれほど優れたシステムを導入しても効果は限定的です。
まずは情報の流れを可視化し、属人化や重複を減らすことが優先されるべきです。
行政支援の方向性
従来の支援策は、IT導入補助や専門家派遣が中心でした。しかし小規模企業にとっては、導入そのものよりも「始め方」が分からないことが最大の壁です。
田岡氏は、IT専門家ではなく、業務に詳しい人材が伴走し、情報整理の支援を行う仕組みを提案しています。退職したシニア人材の活用も有効とされています。
一過性の補助金ではなく、地域に根付いた継続的支援が必要であるという視点は重要です。
結論
中小企業のDXが進まない理由は、意欲の欠如ではありません。
・経営資源の制約
・投資効果の不透明さ
・始め方が分からないという不安
こうした現実的な制約の中で、合理的に慎重になっている結果です。
DXはシステム導入の問題ではなく、情報管理と業務整理の問題です。
まずは社内の情報を把握し、流れを整えること。その土台の上に初めて、ITやAIの活用が意味を持ちます。
中小企業のDXを進めるためには、技術支援だけでなく、整備段階を支える仕組みづくりが不可欠といえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年2月19日朝刊
「私見卓見」田岡賢輔「中小企業のDX、行政の支援必須」

