相続手続きは、遺言の確認から不動産の名義変更、金融機関の対応、相続税申告まで多岐にわたり、相続人の時間と負担が大きくなる手続きの代表例といえます。近年は制度のデジタル化が進み、公正証書遺言のオンライン作成、相続登記のオンライン申請、相続税の電子申告、金融機関のオンライン相続受付など、多くの場面でオンラインの選択肢が広がってきました。
本総集編では、これまでのシリーズ第1回〜第5回で紹介した内容を横断的に整理し、デジタル相続時代に知っておきたいポイントを体系的にまとめます。オンライン化のメリットだけでなく、残された課題や家族コミュニケーションの重要性にも触れながら、相続手続きの全体像を再確認します。
1 オンライン相続手続きの全体図
デジタル化が進むとはいえ、相続手続きのすべてがオンラインで完結するわけではありません。オンライン化の範囲と、紙・対面が残る領域を大きく整理すると次の通りです。
| 手続き | オンライン化の状況 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 作成・署名・保管までオンライン化(要件あり) |
| 相続登記 | 申請はオンライン可能、添付書類はPDF化 |
| 金融機関 | 受付・書類提出はオンライン化、最終手続きは紙が残る |
| 相続税申告 | e-Taxで電子申告可能、評価計算は別作業 |
| 家族コミュニケーション | ツール活用で共有しやすいが対話の重要性も大きい |
オンライン化は効率化の大きな支えとなる一方で、紙・原本・署名が必要な場面は依然として多く、オンラインとオフラインの併用が現実的な運用です。
2 第1回 公正証書遺言のオンライン化
オンライン方式では、
- 遺言の案文調整
- ウェブ会議での読み合わせ
- 電子署名による原本作成
が可能になり、外出が難しい高齢者や遠隔地の人にとって大きなメリットがあります。
ポイントは次の3つです。
(1)本人確認の厳格化
判断能力の確認が必要で、医師の診断書を求められるケースもあります。利害関係者が同席できない点も特徴です。
(2)クラウド保管
原本はPDFとして日本公証人連合会のクラウドへ保管されます。必要に応じて印刷書面の交付も受けられます。
(3)公証人が「オンラインを相当」と認める必要
制度を悪用させず、紛争を防ぐための運用上の要件が設けられています。
オンライン化により遺言作成のハードルは下がりましたが、慎重な確認が求められる点が重要です。
3 第2回 相続登記のオンライン申請
2024年から相続登記が義務化され、オンライン申請の利用が増えています。
主な流れは次の通りです。
- 必要書類(戸籍・評価証明書など)の収集
- 法定相続情報一覧図の取得(推奨)
- 法務局のオンライン申請システムで申請書作成
- 添付書類をPDF化して提出
- 受理後、登記事項証明書を取得
オンライン申請は来局の手間を大きく減らす一方で、PDFの品質や入力内容の正確性が確認されるため、書面申請より補正が発生しやすい点が特徴です。
司法書士へ依頼する場合は、オンライン申請のメリットと専門家による確実性を併用できます。
4 第3回 相続税申告の電子申告(e-Tax)
電子申告の利用が広がり、来署不要で申告が完結できるようになりました。
主な利点は
- 添付資料の管理が容易
- 修正申告もオンラインで可能
- 税理士との資料共有がスムーズ
という点です。
ただし、相続税特有のハードルも残っています。
● 財産評価は自動化されていない
不動産の路線価計算、預金・証券の評価などは自分で行う必要があります。
● 添付書類のPDF化が負担
戸籍一式、保険証券、証券残高、遺産分割協議書など膨大な資料を電子化する必要があります。
電子申告は効率的ですが、紙の申告が向いている家庭もあり、選択が重要です。
5 第4回 金融機関の相続手続きデジタル化
銀行・証券・保険会社では、相続受付や書類提出のオンライン化が進んでいます。
オンライン化が進んだ部分:
- オンライン相続受付フォーム
- 必要書類のアップロード
- 手続き状況の可視化
- ログイン型ポータルでの一元管理
オンライン化が難しい部分:
- 相続人全員の署名押印が必要な協議書
- 印鑑証明書の原本提出
- 高額払戻し時の本人確認
- 紙の郵送が求められるケース
金融機関の相続手続きは「ハイブリッド化」が基本であり、オンラインと紙が併存する構造が今後も続くと考えられます。
6 第5回 家族コミュニケーションと紛争予防
オンライン化に伴い、相続人が遠隔地でも手続きを進められる一方、情報共有が不足するとトラブルの火種になります。
特に重要なポイントは以下の通りです。
(1)役割分担の明確化
誰が何を担当するかを最初に決めることで手続きの停滞を防ぎます。
(2)情報共有のルール化
共有頻度、オンライン会議の活用、クラウドストレージの利用が効果的です。
(3)重要局面では対話を重視
遺産分割協議など感情的な要素が強い場面ではオンラインだけに頼らず、丁寧な対話積み重ねが紛争予防につながります。
(4)専門家の活用
税理士、司法書士、弁護士など、第三者を交えることで客観性と透明性を高められます。
結論
相続手続きのオンライン化は、相続人の負担を大きく軽減し、遠隔地でも手続きを進められる利便性をもたらしました。公正証書遺言のオンライン化、相続登記のデジタル申請、電子申告、金融機関のオンライン手続きなど、制度は確実に前進しています。
一方で、相続は法律・税務・登記・金融の複合領域であり、オンライン化だけでは解決できない課題も残ります。相続人間の理解、協力、対話が伴わなければ、効率的な手続きは実現しません。
今後の相続に求められるのは、デジタルツールを活用しつつ、人のコミュニケーションを適切に組み合わせる姿勢です。オンライン手続きを効果的に活かすことで、相続を円滑に進め、家族関係の維持につながる実務が実現します。
参考
・法務省資料
・国税庁 e-Tax 手続き案内
・金融庁・銀行協会・証券業協会の相続手続き資料
・公証制度オンライン化関連資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

