AI社会変革シリーズ 第8回 AI×税務・行政DX編:申告前社会と自動化行政の未来

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AIの発展は、産業や教育だけでなく、税務・行政の世界にも大きな変革をもたらしつつあります。
税務行政はデータと法規に基づく運用であるため、AIとの相性が極めて良く、世界各国で「自動化」と「事前捕捉」が急速に発展しています。
日本でも行政DXが進みつつあり、将来的には「申告する前に税額が提示される社会」=Pre-filing Societyが現実的な選択肢になりつつあります。
本記事では、AIが税務行政と行政サービスをどう変えるのかを整理します。

1. 税務はAIとの相性が最も高い領域である

税務行政は次の特徴を持ち、AIの活用余地が非常に大きい分野です。

  • 大量のデータ(所得・支出・資産・法人決算)
  • 過去の大量の申告データ
  • 判例・通達・法令の体系化
  • 形式基準と実質判断の併存
  • 不正のパターンがデータ化しやすい

つまり、AIが得意とする要素の集合体です。
国税庁もAIを活用していますが、これは世界的潮流の一部に過ぎません。


2. 申告は「AIが推計し、人が承認する」方向へ

従来の税務プロセスは、

  1. 納税者がデータを集める
  2. 自分で計算する
  3. 書類を作り提出する

という“人間中心”のモデルでした。
AI時代にはこれが逆転します。

  • 厳選されたデータが自動連携
  • AIが所得・控除・税額を推計
  • “事前申告案”が納税者に提示
  • 人間は確認と修正のみを行う

このモデルが Pre-filing(事前申告)社会 です。

デンマークやエストニアではすでに実現しており、日本でも以下が整えば現実的になります。

  • e-Taxデータの一体化
  • 金融データ連携
  • インボイス制度の浸透
  • 個人事業主・フリーランスの帳簿データ共有

「申告作業」に費やす時間は大幅に削減されます。


3. AI×税務調査:調査の“選定”が高度化する

AIは調査業務においても大きな役割を果たします。

AIで進化する領域

  • 異常値の検知
  • 同業他社との比較分析
  • 持続的な不正パターンの自動探索
  • 申告内容の整合性のチェック
  • グレーゾーンの抽出

調査そのものよりも、
“調査対象をどう選ぶか”がAIの中核になります。

また、AIが一度「怪しい」と判断した事案は、継続監視が可能です。
これにより税務調査は、事後対応から予防型へシフトします。


4. 収入捕捉の精度が上がると税務は「透明な仕組み」へ進む

インボイス制度・マイナンバー・オンライン決済の普及により、

  • 所得
  • 支出
  • 資産
  • 事業活動

がデジタルで捕捉される精度が高まっています。

AIがこれらを統合すると、
経済活動と税務が“ほぼリアルタイム”で対応する社会になります。

これは、

  • 不正行為のハードル上昇
  • 税務格差(情報格差)の縮小
  • 税負担の公平性の改善
  • 税務調査の効率化

といったメリットを生みます。


5. 行政DX:自治体の“自動化行政”が実現する

すでに自治体ではAI行政が始まっています。

  • 児童手当などの自動判定
  • 行政文書の自動作成
  • 住民相談のAIチャット窓口
  • 災害時の自動情報整理
  • 議会資料の自動要約
  • 税証明書の自動発行

さらに次の段階では、

  • 福祉給付(金額・対象・優先度)のAI査定
  • 地域防犯のAI自動監視
  • AIによる自治体財政シミュレーション
  • 職員の“事務作業ゼロ”化

といった“自動化行政”へ進むと考えられます。


6. AI時代の税理士・行政職は「判断・構想」が役割の中心になる

AIが実務を支えるほど、人間の役割は”上位の仕事”へ集約されます。

税理士の新しい役割

  • AIが提示した申告案の精査
  • 事業者の将来戦略の助言
  • グレーゾーン判断・紛争対応
  • AI導入支援(バックオフィスDX)
  • 経営者の意思決定を支えるコンサルティング
  • 相続・事業承継などの高度領域への特化

記帳・入力・資料収集はAIと自動連携が行い、
税理士は 判断・構想・説明 の専門職へ進化します。

行政職の新しい役割

  • 住民感情・地域課題の拾い上げ
  • AIが出した結論の妥当性検証
  • ルール形成(制度設計)
  • 住民とのコミュニケーション
  • 政策の優先順位付け

AI行政の強みを最大化するには、
“人が制度の方向性を示す”工程が不可欠です。


7. AI×税務・行政が実現する未来

AIが税務・行政に本格導入されると、社会は次のように変わります。

  • 行政手続きの“ほぼゼロ待ち”
  • 住民相談が24時間対応
  • 申告にかかる時間が大幅減
  • 行政文書の品質が均一化
  • 税務の透明性が向上
  • 小規模自治体の運営能力が維持
  • 経営者・個人の時間が増え生産性向上

AIは「行政・税務の効率化の道具」ではなく、
「社会の運営方式そのものを変える基盤」になります。


結論

AIは税務・行政において、
“提出して処理される仕組み”から“事前に把握され自動処理される仕組み”へ、社会の構造を根本から転換させつつあります。
Pre-filing社会の到来、税務調査の予防型運用、行政サービスの自動化により、行政はより透明で負担の少ない形へ進化します。
その一方で、人間の役割は「判断」「構想」「制度設計」という上位領域に集中し、専門家や公務員の価値はむしろ高まります。

AI前提の税務・行政DXは、日本の行政の効率化だけでなく、社会の持続性を支える中核となるでしょう。

出典

・日本経済新聞「AIによる社会革命に対処せよ」(2025年11月)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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