AIが専門職の“社会的役割”を変える― 信頼と公共性の再定義(AIが変える税務教育と人材育成 第17回)

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AIの急速な発展により、税務・会計・金融・教育など、
あらゆる専門職が“再定義”を迫られています。

これまで「専門職の使命」は、
知識と経験を活かして他者を助け、社会の公正を守ることでした。

しかしAIが知識を共有し、判断を支援できるようになると、
「知っていること」や「正確に計算できること」だけでは、
専門職としての価値を示すことはできません。

今、問われているのは――
“AI時代における専門職の信頼と公共性”です。
本稿では、AIが社会的役割をどう変えるのかを整理し、
「信頼を守る専門職」としての新しい使命を描きます。


1. AIがもたらす「専門性の開放」

AIは、かつて専門職だけが持っていた「知識の壁」を低くしています。
税務の相談、会計の仕訳、投資の分析――。
AIはこれらを瞬時に提示し、一般の人々も“専門知識”を使いこなせるようになりました。

この現象は、専門職の価値を奪うものではなく、再構築の機会です。

項目旧来AI時代
知識の所有専門家が独占誰でもアクセス可能
相談手段対面・紹介中心AIアシスタント経由で即時対応
専門職の役割回答者信頼のナビゲーター

AIによって「知識」は共有資産となり、
専門職は「情報の提供者」から「信頼の翻訳者」へと進化するのです。


2. 「公共性」の重心が“国家”から“社会ネットワーク”へ

税理士・会計人・FPといった職業は、
本来「社会の信頼基盤を支える公的専門職」として位置づけられています。

しかしAIが政策・行政・市場のデータを横断的に結びつけるようになると、
“公共”の定義そのものが広がります。

たとえば、

  • 市民一人ひとりがAIを通じて行政情報を自ら検証できる
  • AIが公益性・透明性を自動で監視する
  • SNSやプラットフォーム上で“共有された信頼”が生まれる

このような時代において、専門職が守るべき公共性とは、
国家制度の枠を超え、「信頼のネットワークを守る責任」へと変わります。
それはまさに、“社会のインフラとしての専門職”です。


3. AIによる「説明責任」の再定義

AIが判断を支援するようになると、
専門職には新しいタイプの説明責任(Accountability)が求められます。

AIが出した結論をそのまま伝えるのではなく、

  • どのようなデータが使われたのか
  • どのような仮定に基づいているのか
  • どんなリスクが残っているのか

を「人間の言葉で」伝えることが、専門職の役割です。

つまり、“AIを説明する人”が新しい専門家像です。
AIが導いた正解を「どう伝え、どう理解させるか」こそ、
信頼を生む最大の要素になります。


4. AIが見落とす“人間の倫理”

AIは計算や推論を得意としますが、
倫理的な判断社会的な文脈理解には限界があります。

税務・会計・金融の現場では、
「法的に正しいか」だけでなく「社会的に妥当か」「顧客にとって誠実か」が問われます。

AIはこうした“グレーゾーンの倫理”を扱えません。
だからこそ、AI時代における専門職には、
倫理を解釈し、社会に語りかける力が求められます。

AIの判断がいかに正確でも、
それを「どのような意図で使うか」は人が決める。
倫理とは、AIを“使う勇気”と“止める勇気”の両方を持つことなのです。


5. 専門職の新しい使命 ― 「信頼のガバナンス」

AIが社会全体に広がるほど、信頼のリスクも増します。
誤った情報、偽装されたデータ、不透明なアルゴリズム――。
こうした問題に対し、専門職は信頼の監査人(Trust Auditor)としての役割を担います。

【AI時代の信頼ガバナンス】

  1. データの透明性を確保すること
     (出所・根拠・改ざんリスクの点検)
  2. AIの判断過程を可視化すること
     (説明可能性・偏り・再現性の確認)
  3. 社会的影響を評価すること
     (倫理・公平性・公共性の観点)

税理士や会計人が、
数字の正確性を保証してきたように、
今後は「AIの信頼性」を保証する専門職が求められる時代です。


6. “AIと人間の共責任”という新しい公共倫理

AI社会では、「誰が責任を負うか」が曖昧になりがちです。
だからこそ必要なのは、AIと人間の共責任モデル(Co-Responsibility)です。

  • AIが提示した結果に人が納得するまで検証する
  • 人が選んだ判断をAIが記録・説明する
  • 双方の関与が明確に残る仕組みを整える

この共責任モデルによって、
AIは「免責の道具」ではなく、「責任を共有するパートナー」になります。
専門職は、AIと人間の間に立ち、“責任の線引きをデザインする職能”として進化します。


7. “信頼の社会的契約”を再構築する

AIが信頼を可視化する社会では、
信頼とは「信用」ではなく、「契約」に近い概念になります。

  • 顧客がAIを信頼するのは、結果だけでなく説明を重視するから
  • 組織が専門職を信頼するのは、判断の一貫性と倫理観に基づくから
  • 社会が専門職を信頼するのは、AIを適切に使いこなす力があるから

つまり、AI時代の信頼とは、
「誠実さの証明」と「透明性の共有」によって成立する“社会的契約”です。
専門職はその契約の担い手として、社会の信頼構造を守り続ける責務を負います。


結論

AIが進化すればするほど、
社会は「何を信じるか」ではなく「誰を信じるか」が問われます。

AIは知識を広げ、判断を支援します。
しかし、信頼を築き、公共を守るのは、やはり人間です。

AI時代の専門職の使命とは、
データを正すことではなく、信頼をつなぐこと。

AIが社会を効率化し、人がその社会を支える。
この“共進化のバランス”こそが、
AI時代における専門職の新しい公共性なのです。


出典
・日本税理士会連合会「AI社会における専門職の信頼と倫理」
・経済産業省「AIガバナンスガイドライン2025」
・OECD「Ethical Accountability in the AI Era」
・文部科学省「公共性とAI教育に関する報告書」
・デジタル庁「信頼のデジタルガバナンス白書」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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