AIが専門職教育を“共創の場”に変える― 学びの共同体としてのAI活用(AIが変える税務教育と人材育成 第10回)

効率化
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

AIの進化によって、「教育」はもはや一方向の知識伝達ではなくなりました。
特に税務・会計・FPといった専門職教育の現場では、
AIが“教える側”にも“学ぶ側”にも参加する新しい形が生まれています。

AIは単なる学習補助ツールではありません。
学びのプロセスを共に設計し、進化させる“共創のパートナー”です。

本稿では、AIによって専門職教育がどのように変わるのか、
そして教育が「知識伝達の場」から「共創の場」へと変わる過程を見ていきます。


1. 教育の主役が“AI”ではなく“学びの関係”に変わる

AIが教材を生成し、問題を出題し、採点まで行う時代。
それでも教育の中心にあるのは、人と人の学びの関係です。

AIができるのは「答えを提示すること」。
人間が担うのは「問いを育てること」。
この役割の違いこそが、AI時代の教育の本質です。

領域AIが得意なこと人間が担うこと
知識正確に提示する背景や意義を理解させる
思考論理的展開を支援複数の視点を結びつける
感情学習態度の傾向分析モチベーションを引き出す

教育の目的が「覚える」から「考える」へ変わるとき、
AIは教師ではなく、共に考える仲間として存在するようになります。


2. “AIと共に学ぶ”教育デザイン

AIを教育現場に取り入れる際、重要なのは学習の共同設計(Co-Design)です。
単にAI教材を導入するのではなく、
教師・学習者・AIの三者が役割を補い合う構造を設計する必要があります。

【AI共創型教育の三層構造】

  1. 知識層(Knowledge Layer)
     AIが最新情報や税制改正データを提供し、学習の基礎を支える。
  2. 対話層(Dialogue Layer)
     AIが質問や反論を提示し、思考の幅を広げる。
  3. 省察層(Reflection Layer)
     学習者がAIの回答を吟味し、自分の言葉で再構築する。

この三層を意識した学びの設計により、
教育は“AIに教わる”から“AIと共に考える”へと進化します。


3. 専門職教育の再定義 ― 「即戦力」から「共創力」へ

AIが情報処理を担うことで、
人間が学ぶべきスキルの焦点は「即戦力」から「共創力」に移っています。

【AI時代の専門職教育に求められる3つの力】

  1. AIを問い直す力(Critical AI Literacy)
     AIが出した答えの妥当性を批判的に評価する。
  2. AIと協働する力(Collaborative Intelligence)
     AIをチームの一員として使いこなす。
  3. 人間らしさを言語化する力(Human Interpretation)
     AIにはない価値観・倫理観を自分の言葉で説明する。

税務・会計の現場では、AIが数値を示す一方で、
人間が「その数字の意味」を語る役割を担います。
教育も同様に、AIが示す知識を“人の言葉”に変える訓練が不可欠です。


4. 学びの共同体 ― “AI+人間+専門家”の三位一体構造

AIを用いた教育が最も成功している現場には、
共通して次のような「共同体の構造」があります。

役割主な機能教育現場での位置づけ
AI知識提供・個別学習支援いつでもアクセスできる学習伴走者
学習者AIの出力を批判的に吟味・再構成主体的に問いを立てる存在
教育者(専門職)判断・倫理・実践の文脈を補足学びの方向を整えるファシリテーター

この三者の対話を通して、教育は“結果”ではなく“関係性”を育てるプロセスへと変わります。
特に専門職教育では、AIが提供する客観的知識を、教育者が社会的文脈で翻訳し、
学習者が自分の実務に引き寄せて考える――その循環構造が理想です。


5. 教室から“共創空間”へ ― 学びの環境デザイン

AI時代の教室は、もう「前に教師が立つ場所」ではありません。
AI・学生・教育者が対等に対話し、試行錯誤を共有する“共創空間”です。

たとえば、税務演習の授業でAIを使う場合:

  • AIが提示した申告書のドラフトを学生が評価し、修正理由を議論する。
  • AIが提案した節税策を、倫理面・実効性の観点から検証する。
  • AIの出力をもとに、異なる判断を比較・再構築する。

このような教育は、AIの正解を学ぶのではなく、
「AIと共に考える力」そのものを育てる学びです。


6. 教育者の役割も“教える人”から“共に学ぶ人”へ

AIを使う教育では、教師もまた学び手になります。
AIが予想外の回答を出すことで、教師自身が新たな発見を得る。
その“共学”の姿勢こそが、学生にとって最大の教育効果を生みます。

教師の役割は「知識の供給者」ではなく、学びの設計者(Learning Architect)へ。
AIと人間の知識をつなぎ、信頼に基づく対話をデザインする存在となります。


結論

AIは教育を効率化するためのツールではなく、
人間の学びを深めるための鏡です。

AIが知識を整理し、人が問いを立て、
AIが提案し、人が解釈する――。
この往復こそが“共創としての教育”です。

税務・会計・FP教育においても、
AIは専門知識を自動で教える存在ではなく、
知識の意味を一緒に考えるパートナーとして位置づけるべきです。

AIと共に学び、AIと共に考える。
そこから生まれる新しい教育の形が、
次世代の専門職を育てる礎になるのです。


出典
・日本税理士会連合会「AIリテラシーと専門職教育の未来」
・文部科学省「AI×専門教育 共創モデル構築報告」
・OECD「Co-Creation in Professional Learning」
・経済産業省「AIを活用した人材育成モデル実証事業」
・国税庁「AIを活用した税務教育実証報告2025」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました