2026年度税制改正要望の中で、日本税理士会連合会(日税連)は「役員給与の損金算入基準」の見直しを求めています。
特に注目されるのが、定期同額給与を期中に減額する際に求められる「経営状況の著しい悪化要件」の緩和です。
この要件は形式的に厳格であり、実務上の負担やリスクが大きいことから、税理士実務でも慎重な判断が求められます。
1.現行制度の概要と課題
法人税法上、役員給与のうち損金に算入できるのは次の3類型のみです。
- 定期同額給与(毎月同一額で支給される給与)
 - 事前確定届出給与(事前に支給時期・金額を届け出た賞与等)
 - 利益連動給与(上場企業等が対象)
 
このうち中小企業の大半が採用しているのは「定期同額給与」です。
期中での変更は原則認められず、例外は以下の3つに限られます。
- ① 期首から3か月以内の改定
 - ② 職務内容・地位の重大な変更
 - ③ 経営状況の著しい悪化
 
この③の「著しい悪化」は数値基準がなく、実際に減額しても損金算入が認められないケースがあります。
税務署は「恣意的な利益操作」を防ぐ観点から極めて慎重に判断しており、追徴リスクを恐れて実務が萎縮する状況も見られます。
2.実務での損金算入判定ポイント
税理士が顧問先の役員給与減額を検討する際には、「合理的な経営判断」として説明できる証拠を整えることが最重要です。
実務上の判断・説明のポイントは次の通りです。
| 判定項目 | 実務上の判断・留意点 | 
|---|---|
| 売上高の減少 | 前期比10〜20%以上の減少が一つの目安。単月ではなく四半期・半期ベースでの下落を示す。 | 
| 経常損益の悪化 | 経常赤字転落または著しい利益率低下(例:5%→1%未満など)。 | 
| 資金繰りの逼迫 | 借入金の増加、リスケ交渉、仕入代金や賞与支払の延期など、資金余力が低下している事実。 | 
| 外部環境の変化 | 災害、主要取引先の倒産、原材料高騰などの客観的事由。新聞記事・通知書等の添付が有効。 | 
これらの指標をもとに、「第三者(税務署・金融機関等)が合理的と判断できる説明資料」を整備することが肝要です。
3.説明資料・社内決裁書の作成ポイント
定期同額給与の減額に踏み切る場合、税務調査で説明できるよう、内部決裁と資料保存を徹底します。
以下は、実務上の標準的な資料構成例です。
(1)社内決裁書の基本構成
- 件名:役員報酬改定に関する決裁書
 - 決裁日:〇年〇月〇日
 - 改定対象者:代表取締役〇〇〇〇
 - 改定内容:月額報酬〇万円 → 〇万円(△%減額)
 - 改定理由:業績悪化に伴う経営合理化(詳細は添付資料参照)
 - 有効期間:〇年〇月~当面の間
 - 添付資料:①売上・損益推移表、②資金繰り表、③取締役会議事録
 
(2)添付資料例
- 月次損益推移表(前期比較)
 - 資金繰り表・借入残高一覧
 - 主要取引先の倒産・契約減少通知等の写し
 - 経営会議または取締役会議事録(報酬減額の決議を明記)
 - 税理士コメントまたは助言記録(第三者意見として有効)
 
これらの資料を社内文書として保存し、決裁日と支給変更日が整合していることを確認します。
改定の合理性・客観性が説明できれば、調査時のリスクを大幅に軽減できます。
4.税務上の留意点と助言
- 減額後の支払額が確定した月以降の損金計上に限定される点に注意(遡及的損金は不可)。
 - 改定前の高額設定が不自然な場合、「当初からの枠取り」と判断されるリスクがある。
 - 税理士としては、事前に「報酬設定方針」や「合理的根拠」を書面化しておくことが望ましい。
 - 減額後も業績が回復すれば、改定(増額)時も再度3か月ルールに準拠する必要がある。
 
結論
「経営状況の著しい悪化要件」は、形式的に運用されやすく、企業実態との乖離を生みやすい領域です。
税理士としては、制度緩和の動きを注視しつつも、現行制度下では「説明責任を果たすための証拠資料の整備」を最優先にすべきです。
報酬決定の合理性・透明性を確保し、税務調査に備えた内部統制文書を整備することが、最も実務的な防衛策といえます。
出典
出典:2025年11月3日 日本経済新聞「役員給与、損金の範囲は」
参考:日本税理士会連合会「2026年度税制改正要望(法人課税関係)」、国税庁「法人税基本通達9-2-6(定期同額給与)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  