日本は世界でも例を見ないスピードで高齢化が進んでいます。
しかし、その中で静かに深刻化しているのが、「老人ホームに入りたくても入れない高齢者」の問題です。
多くの人は、
- 介護が必要になったら施設に入る
- 一人暮らしが難しくなれば老人ホームへ移る
と漠然と考えています。
しかし現実には、
- 費用が高すぎる
- 空きがない
- 医療対応できない
- 身元保証人がいない
- 認知症対応が難しい
などの理由で、施設に入れないケースが増えています。
その結果、「行き場のない高齢者」が生まれ始めています。
今回は、多死社会における「住まい難民」の問題について考えていきます。
「老人ホームに入れば安心」という前提
現在、多くの人は老後について、
「自宅で暮らせなくなったら施設へ移る」
というイメージを持っています。
しかし実際には、「老人ホーム」と一口に言っても種類は大きく異なります。
例えば、
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 介護老人保健施設(老健)
- 有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- グループホーム
などがあります。
しかも、
- 要介護度
- 医療依存度
- 認知症状態
- 所得
- 保証人有無
によって、入れる施設は変わります。
つまり、「誰でも必要になれば入れる」わけではないのです。
特養は“最後の砦”ではなくなった
特に問題なのが、特別養護老人ホームです。
かつて特養は、
- 比較的低価格
- 長期入所可能
- 公的色彩が強い
ことから、「最後の受け皿」として機能していました。
しかし現在では、
- 入所待機
- 人手不足
- 重度者優先
- 建設コスト増
などによって、以前ほど簡単には入れません。
さらに2015年以降は、原則として要介護3以上でなければ入所しにくくなっています。
つまり、「まだそこまで重度ではないが、一人暮らしは難しい」という人が、制度の谷間に落ちやすくなっているのです。
有料老人ホームは“高すぎる”
では民間施設はどうでしょうか。
有料老人ホームや高級サ高住は増えています。
しかし問題は費用です。
施設によっては、
- 入居一時金数百万円〜数千万円
- 月額20万〜40万円超
というケースもあります。
つまり、一定の資産がなければ継続利用が難しいのです。
また、最近ではインフレや人件費高騰によって、利用料も上昇傾向にあります。
特に介護職不足は深刻で、人材確保コストが施設料金へ転嫁されやすくなっています。
その結果、
「自宅では暮らせない」
↓
「施設も高すぎて入れない」
という人が増え始めています。
身元保証人がいない問題
さらに深刻なのが、「身元保証人問題」です。
多くの施設では、
- 緊急連絡先
- 身元引受人
- 費用支払保証
などを求めます。
しかし、
- 未婚
- 子どもがいない
- 家族と疎遠
という高齢者は増えています。
つまり、「入りたくても保証人がいない」という問題が起きているのです。
これは賃貸住宅問題とも共通しています。
日本社会は長年、「家族が最後に責任を負う」ことを前提としてきました。
しかし、その家族構造自体が崩れ始めているのです。
“病院”が住まい代わりになる現実
施設へ入れない場合、何が起きるのでしょうか。
一部では、病院が事実上の「住まい代わり」になっています。
本来、病院は治療の場です。
しかし、
- 自宅へ戻れない
- 施設も空いていない
- 家族支援がない
場合には、退院先が見つからないことがあります。
これがいわゆる「社会的入院」です。
医療費増加の背景には、こうした「住まい問題」も存在しています。
つまり、高齢者問題は、
- 医療
- 介護
- 住宅
- 家族
が分断できない問題なのです。
“住まい難民”は今後さらに増える
今後は、多死社会によって死亡者数が増えるだけでなく、後期高齢者人口も増えていきます。
しかも、
- 単独世帯増加
- 未婚化
- 子どもの減少
- 地域共同体の縮小
も同時進行しています。
つまり、「家族が支えるモデル」が機能しにくくなっているのです。
その結果、
- 自宅で暮らせない
- 施設も入れない
- 支える家族もいない
という「住まい難民高齢者」が増える可能性があります。
これは単なる福祉問題ではありません。
日本社会の居住インフラ全体の問題です。
“施設不足”より深刻な“人不足”
ここで見落とされがちなのが、「建物」より「人」の問題です。
仮に施設を増やしても、
- 介護士
- 看護師
- ケアマネジャー
が不足すれば運営できません。
しかも介護業界では、
- 低賃金
- 重労働
- 離職率
- 人材流出
が長年問題となっています。
つまり、今後は「施設数不足」より、「支える人不足」の方が深刻化する可能性が高いのです。
“住まい”と“介護”の一体化が進む
今後は、
- 見守り
- 生活支援
- 医療連携
- 介護
- デジタル監視
を組み合わせた新しい住まいモデルが必要になるでしょう。
例えば、
- 地域包括ケア
- 小規模分散型住宅
- AI見守り
- オンライン健康管理
- 民間保証サービス
などです。
つまり、「住まい」は単なる居住空間ではなく、「生活支援インフラ」へ変わり始めているのです。
結論
老人ホームへ入れない高齢者が増えている背景には、
- 費用負担
- 施設不足
- 身元保証問題
- 人手不足
- 家族機能の弱体化
があります。
そして今後は、
- 高齢化
- 単独世帯増加
- 多死社会
によって、この問題はさらに深刻化する可能性があります。
重要なのは、「施設を増やせば解決する」という単純な問題ではないことです。
本当に必要なのは、
- 住まい
- 医療
- 介護
- 見守り
- 地域支援
を一体で考えることです。
多死社会とは、「どこで死ぬか」の問題ではありません。
「最後まで、どこで生き続けられるのか」という問題でもあるのです。
参考
・日本経済新聞 朝刊 2026年5月28日 「多死社会の実相(3) 希望する葬儀形態の背景」 名古屋学院大学准教授 玉川貴子
・厚生労働省「高齢社会対策大綱」
・総務省「令和5年版高齢社会白書」
・国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」
・厚生労働省「地域包括ケアシステム」