令和5年度税制改正によって導入された「源泉徴収票のみなし提出の特例」に関するQ&Aが、国税庁から公表されました。
この改正は、一見すると単なる提出手続の簡素化に見えます。しかし実際には、給与支払報告書と法定調書の関係整理、eLTAX活用の推進、年末調整実務のデジタル化など、今後の源泉徴収事務のあり方を大きく変える可能性があります。
特に今回のQ&Aでは、「令和8年の途中で退職した従業員」についても、一定の場合には“みなし提出”の対象になることが明示されました。
今回は、この制度改正の内容と実務への影響を整理します。
制度改正の概要
令和9年1月1日以後に提出する給与所得の源泉徴収票または公的年金等の源泉徴収票については、一定事項が記載された支払報告書を市区町村へ提出した場合、税務署への源泉徴収票提出をしたものとみなされます。
つまり、これまでは、
- 市区町村へ「給与支払報告書」
- 税務署へ「源泉徴収票」
をそれぞれ提出していましたが、改正後は、市区町村への提出のみで税務署提出を兼ねることになります。
もっとも、従業員本人への源泉徴収票交付義務は従来どおり残ります。
このため、「従業員への交付が不要になる」という改正ではありません。
なぜこの改正が行われたのか
従来の源泉徴収実務では、同じような情報を、
- 税務署
- 市区町村
の双方へ提出していました。
しかも、記載内容は極めて近似しており、実務上は「二重提出」に近い状態でした。
今回の改正は、
- 行政手続の効率化
- 電子申告推進
- データ連携強化
- 事業者負担軽減
を目的としています。
特にeLTAXを軸とした地方税データ連携を強化する方向性が明確になっています。
「途中退職者」も対象になる点が重要
今回のQ&Aで特に注目されたのが、年途中退職者の取扱いです。
法令上、年途中退職者の源泉徴収票は、退職後1か月以内に税務署へ提出することとされています。
しかし実務上は、翌年1月末までに他の従業員分とまとめて提出する運用が広く認められていました。
今回のQ&Aでは、この運用を踏まえ、
「令和9年1月1日以後に提出する場合」
には、年途中退職者分であっても、みなし提出特例の対象になることが示されました。
これは実務上かなり重要です。
もしこの整理がなければ、
- 在職者は提出不要
- 途中退職者だけ税務署提出必要
という二重管理が発生していた可能性があります。
今回のQ&Aにより、実務運用の統一が図られたといえます。
書面提出でも特例対象になる
今回の特例は、
- eLTAX
- 光ディスク等
- 書面提出
のいずれでも適用されます。
つまり、完全電子化を条件としているわけではありません。
ただし、eLTAX提出の場合には、従業員側にとってメリットがあります。
eLTAX経由で提出された給与支払報告書は、確定申告時のマイナポータル連携対象となるためです。
今後は、
- 年末調整
- 確定申告
- マイナポータル
- データ自動連携
がさらに一体化していく方向性が見えてきます。
実務上の本当の影響
今回の改正は「提出先が減るだけ」と軽視されがちですが、実際には企業実務へかなり影響があります。
特に重要なのは次の点です。
法定調書管理の考え方が変わる
従来は、
- 税務署提出用
- 市区町村提出用
を別管理していた企業も少なくありません。
しかし今後は、
「支払報告書を正確に作成すること」
がそのまま税務署提出を兼ねることになります。
つまり、地方税実務の精度がそのまま国税実務へ直結します。
年末調整システムへの影響
給与システムや年末調整システムも対応が必要になります。
特に、
- 提出区分
- 提出先管理
- 電子提出判定
- データ保存
- eLTAX連携
などの仕様変更が発生する可能性があります。
KSK2移行と同時期であることもあり、令和8年~9年は給与実務システムの大規模見直し期になる可能性があります。
電子的提出義務判定は旧基準を維持
今回、実務上かなり重要なのがここです。
源泉徴収票の提出範囲は支払報告書と揃えられましたが、電子的提出義務判定に用いる「提出枚数」は、改正前基準で判定するとされています。
つまり、
「提出不要になったから件数ゼロ」
になるわけではありません。
ここを誤解すると、
- 電子提出義務判定
- 法定調書合計表管理
などでミスが発生する可能性があります。
制度簡素化の一方で、判定ロジックはむしろ複雑化している面もあります。
今後の方向性
今回の改正は、単なる提出省略ではなく、
- 国税と地方税の情報一元化
- 行政DX
- マイナポータル連携
- データ自動処理
へ向かう流れの一部と考えられます。
将来的には、
- 年末調整データ
- 給与データ
- 社会保険データ
- 確定申告データ
の統合管理がさらに進む可能性があります。
一方で、
- システム障害
- 情報漏えい
- データ誤連携
- 訂正処理負担
など、新たな実務リスクも増えていきます。
「提出が減る=実務が簡単になる」とは限らない時代に入っているともいえます。
結論
源泉徴収票のみなし提出特例は、形式的には提出先の合理化ですが、その本質は「給与データ管理の統合化」にあります。
特に今回のQ&Aで、
- 年途中退職者も対象
- 書面提出でも対象
- ただし電子提出義務判定は旧基準維持
という整理が明確になったことで、実務上の運用方針がかなり見えてきました。
今後は、
- eLTAX中心運用
- マイナポータル連携
- KSK2対応
- 年末調整DX
が同時並行で進む可能性があります。
給与実務は今後、「単なる紙の作業」ではなく、データ管理そのものへ変化していくことになりそうです。
参考
・税のしるべ 2026年5月4日号
「源泉徴収票のみなし提出の特例Q&Aを公表、令和8年の途中で退職も特例の対象に」
・国税庁
「源泉徴収票のみなし提出の特例に関するQ&A」
・令和5年度税制改正大綱
・地方税法関係資料