税務調査はこの問題にどう向き合うのか 捕捉困難時代の実務対応(実務編)

税理士
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海外QR決済に象徴される「捕捉できない経済」は、制度論だけでなく、税務調査の現場にも大きな影響を与えています。従来のように金融機関の取引記録や帳簿を中心に把握する手法だけでは、十分な実態把握が難しくなりつつあります。

では、こうした状況に対して税務調査はどのように対応していくのでしょうか。本稿では、実務の視点から整理します。


従来型の税務調査の前提

まず、従来の税務調査は次のような前提に立っていました。

・売上は国内金融機関を経由する
・帳簿と実際の資金の動きが連動する
・取引の証拠が国内に存在する

このため、

・預金口座の入出金分析
・帳簿と証憑の突合
・請求書や領収書の確認

といった手法により、売上や所得の把握が可能でした。

しかし、海外QR決済のように資金の流れが国外で完結する場合、この前提が崩れます。


新たな調査アプローチ 「間接証拠」の活用

捕捉が難しい取引に対しては、直接的な証拠ではなく「間接証拠」の積み上げが重要になります。

具体的には、

・店舗の来客数や客単価の推計
・仕入数量と売上数量の整合性
・在庫の増減
・従業員の勤務実態

といった情報から、売上規模を推計する手法が用いられます。

これはいわゆる「推計課税」に近い考え方であり、資金の流れが見えない場合でも、経済活動の痕跡から所得を推定するアプローチです。


生活実態・消費実態からの把握

もう一つ重要なのが、事業者の生活実態との整合性です。

例えば、

・高額な家賃や不動産の保有
・高級車の購入・維持
・頻繁な海外渡航
・生活水準と申告所得の乖離

といった要素は、所得の過少申告の兆候となります。

このような場合、

・生活費の原資はどこから出ているのか
・資金の裏付けがあるのか

といった観点から調査が行われます。

海外QR決済により売上が把握しにくくても、生活実態との不整合は隠しにくいという特徴があります。


デジタル情報の活用

デジタル化の進展により、税務調査で利用される情報も変化しています。

近年は、

・SNS上の投稿
・口コミサイトの情報
・オンライン上の販売履歴
・決済アプリの利用状況

なども参考情報として活用されるケースがあります。

例えば、

・繁盛している様子がSNSに投稿されている
・レビュー件数が多く売上規模が推測できる

といった情報は、申告内容との整合性を検証する材料となります。

直接的な証拠ではなくとも、複数の情報を組み合わせることで実態に迫る手法が重要になります。


第三者情報の重要性

税務調査では、第三者からの情報も重要な役割を果たします。

具体的には、

・仕入先からの取引情報
・不動産会社からの賃貸情報
・通信事業者やプラットフォーム事業者からの情報

などです。

海外QR決済そのものの情報が取得できない場合でも、周辺の取引や契約関係から経済活動を把握することが可能です。

このように、「直接見えないなら周辺から固める」という発想が強まっています。


海外取引への対応の限界

一方で、海外に完結する取引については、現実的な限界も存在します。

・国外決済事業者からの情報取得が困難
・国際的な情報交換の枠組みに依存
・実効的な強制力が及びにくい

といった事情から、すべての取引を完全に把握することは難しいのが実情です。

そのため、税務調査は

・リスクの高い事業者の選定
・重点的な調査対象の絞り込み

といった「選択と集中」の考え方がより重要になります。


実務上のリスク 「把握されない」とは限らない

ここで注意すべきなのは、「把握されにくい」ことと「把握されない」ことは異なる点です。

海外QR決済を利用している場合でも、

・仕入や在庫との不整合
・生活実態との乖離
・デジタル情報との矛盾

などから、結果的に課税リスクが顕在化する可能性があります。

むしろ、

・資金の流れが見えない分、推計課税が行われやすい
・一度疑義が生じると広範に調査が及ぶ

といった側面もあり、リスクが低いとはいえません。


結論

「捕捉できない経済」の広がりに対して、税務調査は手法を大きく変えつつあります。

従来の

・帳簿と資金の突合

から、

・間接証拠の積み上げ
・生活実態との整合性
・デジタル情報の活用

へとシフトしています。

海外QR決済のように直接的な取引把握が困難な場合でも、経済活動の痕跡は様々な形で残ります。税務調査はそれらを組み合わせることで、実態に迫る方向に進んでいます。

今後は、単に帳簿を整えるだけでなく、経済活動全体として整合性が取れているかが問われる時代になると考えられます。


参考

税のしるべ 2026年4月20日 海外QR決済を利用時の取引把握問題、片山財務相「解決に向けて努力」

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