遺族補償年金における男女格差の解消が進められています。これは制度の公平性を高める重要な一歩ですが、一方で「遺族年金制度そのものは本当に公平なのか」という本質的な問いも浮かび上がります。
遺族年金は長年にわたり社会の安全網として機能してきましたが、社会構造の変化により、その前提が揺らぎつつあります。本稿では、制度全体を俯瞰しながら公平性の観点から再検証します。
遺族年金制度の基本構造
遺族年金は、大きく分けて以下の2つに分類されます。
- 遺族基礎年金(国民年金)
- 遺族厚生年金(厚生年金)
いずれも「死亡した人に生計を依存していた遺族」を保護する制度ですが、対象や給付内容には大きな違いがあります。
特に重要なのは、「誰が対象になるのか」という点です。
子どもがいない配偶者は保護されにくい
現行制度において最も大きな論点の一つが、遺族基礎年金の支給対象です。
遺族基礎年金は、以下の場合に限って支給されます。
- 子どもがいる配偶者
- 子ども本人
つまり、子どもがいない配偶者には原則として支給されません。
これは制度創設時の「子育て世帯の保護」という目的に基づくものですが、現代では以下のような問題が生じています。
- 子どもがいない共働き夫婦の増加
- 晩婚化・非婚化の進展
- 高齢期の配偶者死亡リスクの増加
この結果、同じように配偶者を失っても、子どもの有無によって給付の有無が大きく異なるという構造が生まれています。
厚生年金加入の有無による格差
もう一つの重要な論点は、厚生年金への加入状況です。
遺族厚生年金は、会社員や公務員など厚生年金加入者に基づく制度であり、以下のような特徴があります。
- 報酬比例で給付額が決まる
- 子どもがいなくても配偶者に支給される
そのため、同じように配偶者を亡くした場合でも、
- 自営業者世帯:遺族基礎年金のみ(または対象外)
- 会社員世帯:遺族厚生年金+遺族基礎年金
という大きな差が生じます。
これは制度設計上当然ともいえますが、「職業による保障格差」として議論の余地があります。
共働き世帯における不整合
現代の社会構造を考えるうえで、最も重要な視点が共働き世帯の増加です。
共働き世帯では、次のような状況が一般的です。
- 夫婦それぞれが収入を持つ
- 家計への依存関係が相対的に弱い
- 双方が社会保険に加入しているケースも多い
この場合、「生計維持関係」という概念自体が曖昧になります。
しかし、現行制度では依然として
- 生計維持の有無
- 収入の大小
といった基準が重視されており、実態とのズレが生じています。
その結果、次のような問題が起こります。
- 一定以上の収入があると遺族年金が受け取れない
- 共働きでも片方の死亡で生活水準が大きく変わる
制度は「専業主婦モデル」を前提として設計されたままであり、現代の多様な家族形態に十分対応できているとはいえません。
公平性とは何かという根本問題
ここまで見てきたとおり、遺族年金制度には複数の「格差」が存在しています。
- 子どもの有無による差
- 職業による差
- 性別による差(今回の改正で一部解消)
- 収入による制限
では、そもそも公平とは何でしょうか。
社会保障における公平性には、主に2つの考え方があります。
水平的公平
同じ状況にある人には同じ給付を行うという考え方です。
垂直的公平
必要性の高い人により多く給付するという考え方です。
遺族年金は本質的に「垂直的公平」を重視した制度ですが、その前提となる「必要性」の判断基準が、現代社会に適合しているかが問われています。
今後の制度見直しの方向性
今回の男女格差解消は第一歩に過ぎません。今後はさらに広い視点での見直しが必要になります。
考えられる方向性としては、次のようなものがあります。
- 個人単位の保障への移行
- 共働き世帯を前提とした制度設計
- 最低保障機能の強化
- 職業間格差の是正
ただし、制度を見直す際には財源の問題が避けて通れません。給付の拡充は保険料や税負担の増加と表裏一体であり、バランスの取れた設計が求められます。
結論
遺族年金制度は、これまで多くの遺族の生活を支えてきた重要な仕組みです。しかし、その設計は過去の社会構造を前提としており、現代との間にズレが生じています。
今回の男女格差解消は、そのズレを修正する一歩ですが、制度全体の公平性という観点ではまだ課題が残されています。
今後は、「誰をどこまで保障するのか」という根本的な問いに向き合いながら、制度の再設計が求められる局面に入っているといえます。
参考
・日本経済新聞(2026年4月8日 朝刊)
遺族年金、男女格差を解消 改正案を閣議決定 「夫55歳以上」撤廃