賃上げ促進税制は、給与の増加額や増加率に基づいて税額控除を行う制度ですが、その計算の前提となるのが「誰の給与を対象とするか」という問題です。
令和6年度改正では、この対象範囲の定義がより重要となっており、特に「国内雇用者」と「継続雇用者」の理解を誤ると、計算結果そのものが誤ることになります。
本稿では、これらの用語の定義と実務上のポイントを整理します。
用語定義が重要となる理由
賃上げ促進税制では、単に給与総額を比較するのではなく、
・対象となる従業員を限定する
・特定の従業員に絞って増加率を算定する
という仕組みが採用されています。
このため、対象範囲の定義を誤ると、
・賃上げ率が過大または過少になる
・適用要件を誤判定する
といった重大な誤りにつながります。
国内雇用者の定義
まず基本となるのが「国内雇用者」です。
国内雇用者とは、原則として国内において雇用されている従業員を指します。
ただし、実務上は単純に勤務地だけで判断できるものではなく、
・雇用契約の内容
・給与の支払主体
・勤務実態
などを踏まえて判断する必要があります。
国内雇用者に含まれるもの
一般的には、
・正社員
・契約社員
・パート・アルバイト
など、国内で雇用されている従業員は対象となります。
国内雇用者から除外されるもの
一方で、次のようなケースは対象外となる可能性があります。
・役員報酬
・国外勤務者
・一定の出向者
特に役員については、給与等支給額の計算対象から除外されるため、注意が必要です。
継続雇用者の定義
次に重要となるのが「継続雇用者」です。
継続雇用者とは、前年度から引き続き雇用されている従業員を指します。
この概念は、賃上げ率の計算において特に重要となります。
なぜ継続雇用者が重要か
賃上げ促進税制では、新規採用による給与増加ではなく、
「既存従業員の給与がどれだけ増えたか」
が重視されています。
そのため、
・新規採用者を含めるか
・途中入社者をどう扱うか
といった点が重要な論点となります。
継続雇用者判定の実務上の論点
継続雇用者の判定は、単純に在籍しているかどうかだけで判断できるものではありません。
① 入退社がある場合
年度途中で入社・退社した従業員については、
・継続雇用者に該当するか
・対象から除外するか
の判断が必要となります。
② 雇用形態の変更
例えば、
・パートから正社員への変更
・契約社員から正社員への転換
といった場合、継続雇用者として扱うかどうかの判断が必要となります。
③ 出向・転籍の扱い
出向や転籍がある場合、
・給与の支払主体
・雇用関係の継続性
を踏まえた判断が求められます。
典型的な誤りパターン
用語定義に関しては、次のような誤りが多く見られます。
① 新規採用者を含めてしまう
新規採用による給与増加を賃上げと誤認するケースです。
② 役員報酬を含めてしまう
役員報酬を給与総額に含めてしまうことで、増加額が過大となるケースです。
③ 継続雇用者の範囲を誤る
継続雇用者の判定を誤ることで、賃上げ率が正しく算定されないケースです。
用語定義と計算の関係
これらの用語定義は、単なる概念ではなく、計算に直接影響します。
具体的には、
・給与等支給額の算定
・増加率の計算
・控除率の適用
すべてが、対象範囲の定義に依存しています。
本シリーズにおける位置付け
本稿で整理した用語定義は、今後の計算実務の基礎となります。
特に次回以降で扱う
・継続雇用者の詳細判定
・月数調整
・別表計算
において、直接的に影響します。
結論
賃上げ促進税制においては、国内雇用者および継続雇用者の定義が、制度適用の前提となります。
これらの理解を誤ると、計算結果そのものが誤ることになるため、
・誰を対象とするのか
・どの給与を含めるのか
を正確に把握することが不可欠です。
制度の複雑化が進む中で、用語定義の理解は、これまで以上に重要な位置付けとなっています。
参考
東京税理士協同組合教育情報事業配布資料(全国統一研修会)「実務上の留意点と別表計算の設例確認」