成年後見制度をテーマとしてここまで見てきた内容は、単なる制度解説にとどまるものではありません。そこには、専門職としての役割そのものを問い直す視点が含まれています。
制度の変化は、社会の変化を反映したものです。そしてその変化は、税理士という職業の在り方にも影響を与えています。
本稿では、これまでの内容を踏まえ、成年後見制度から見えてくる税理士の新しい役割について整理します。
制度が示す方向性
成年後見制度は、「保護」から「支援」へという大きな方向転換の中にあります。
従来は、判断能力が低下した人に対して、第三者が代わって意思決定を行うことが中心でした。しかし現在は、本人の意思を尊重し、その意思決定を支える仕組みへと変化しています。
この変化は、単なる制度の改正ではなく、社会全体の価値観の変化を反映したものです。
税理士の従来の役割
これまでの税理士の役割は、税務申告や会計処理といった業務が中心でした。
正確に計算し、適切に申告することが求められ、そのための専門知識と技術が重視されてきました。
この役割は現在でも重要ですが、それだけでは十分ではなくなりつつあります。
変化する専門職の役割
成年後見制度における変化は、専門職に対して新たな役割を求めています。
それは、単に正解を提示する存在ではなく、意思決定を支える存在としての役割です。
本人の価値観や生活のあり方を踏まえたうえで、どのような選択肢があるのかを整理し、その意思決定を支援することが求められます。
「判断」と「作業」の分離
制度を通じて見えてくる重要な視点の一つが、「判断」と「作業」の分離です。
税務や会計の分野においては、作業的な業務と判断を要する業務が混在しています。しかし、今後はこの二つを明確に区別する必要があります。
作業は効率化や外部化が可能である一方で、判断は専門職としての価値の中核となります。
成年後見制度においても、単なる事務処理ではなく、意思決定に関わる判断が重要となります。
財産管理から意思決定支援へ
税理士の役割は、財産管理にとどまらず、その財産をどのように活用するかという意思決定に関与する方向へと広がっています。
資産を守ることだけでなく、それをどのように使い、どのような生活を実現するのかという視点が重要となります。
この変化は、業務の範囲を広げるだけでなく、仕事の質そのものを変えるものです。
ウェルビーイングという視点
成年後見制度の文脈では、ウェルビーイングという概念も重要です。
これは、単に経済的な安定だけでなく、生活の質や生きがいといった要素を含む広い概念です。
税理士の関与が、このウェルビーイングにどのように寄与するのかという視点は、今後ますます重要となります。
連携の中での専門性
これからの税理士は、単独で完結する専門職ではなく、他の専門職と連携する中で役割を果たす存在となります。
地域連携ネットワークの中で、自らの専門性を発揮しながら、全体として最適な支援を実現することが求められます。
このためには、自らの強みを明確にしつつ、他の分野との関係を理解することが重要です。
リスクと向き合う姿勢
意思決定支援に関与するということは、一定のリスクを伴います。
しかし、そのリスクを過度に回避するのではなく、適切に管理しながら関与していく姿勢が求められます。
専門職としての責任を果たしつつ、価値を提供することが重要です。
専門職の未来像
成年後見制度を通じて見えてくるのは、専門職の未来像です。
それは、単に知識や技術を提供する存在ではなく、人の人生に関わる意思決定を支える存在です。
この役割は、従来の業務よりも広く、そして深いものとなります。
結論
成年後見制度は、税理士の役割を再定義する契機となる制度です。
財産管理や税務にとどまらず、意思決定支援やウェルビーイングの実現に関与することが求められています。
この変化をどのように捉え、自らの業務に取り込んでいくかが、今後の重要な課題となります。
本シリーズを通じて整理してきた視点が、今後の実務の中での判断に活かされることを期待します。
参考
東京税理士協同組合教育情報事業 配布資料 全国統一研修会 成年後見制度に関する資料
最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 令和7年3月