成年後見制度を理解するうえで、避けて通れないテーマが財産管理と身上保護の関係です。制度上はこの二つが並列的に位置付けられていますが、実務ではそのバランスが大きな課題となっています。
多くの場合、制度の運用は財産管理に重点が置かれがちです。しかし本来の制度は、それだけで完結するものではありません。本人の生活や意思を含めた総合的な支援が求められています。
本稿では、この二つの関係を整理し、制度の核心に迫ります。
財産管理とは何か
財産管理とは、本人の資産を適切に維持し、収支を管理することを指します。
具体的には、預貯金の管理、不動産の維持・処分、各種契約の締結、支払いの管理などが含まれます。成年後見制度においては、この財産管理が重要な役割を果たしています。
特に、財産の毀損を防ぐことや、不適切な取引を回避することが重視されるため、慎重な対応が求められます。
身上保護の意味
一方で、身上保護とは、本人の生活や健康、福祉に関する支援を指します。
医療や介護の契約、施設への入所、生活環境の整備など、日常生活に直結する事項が対象となります。
この領域では、単なる契約行為の管理にとどまらず、本人の意思や生活の質をどのように確保するかが重要となります。
なぜ財産管理に偏るのか
実務において財産管理が重視される理由はいくつかあります。
第一に、財産管理は比較的客観的に評価しやすい領域であることです。数値や記録に基づいて管理状況を確認することができるため、責任の所在も明確になります。
第二に、不正防止の観点です。財産の不適切な管理は重大な問題となるため、慎重な対応が求められます。
これらの理由から、制度運用は財産管理に偏りやすい構造となっています。
身上保護の難しさ
これに対して、身上保護は非常に難しい領域です。
本人の意思をどのように把握するか、生活の質をどのように評価するかといった点について、明確な基準が存在しません。
また、医療や介護といった専門分野との連携も必要となるため、単独で対応することが難しいという側面があります。
このため、実務では十分に対応されないケースも見られます。
両者の関係をどう考えるか
財産管理と身上保護は、対立するものではなく、本来は一体として捉えるべきものです。
財産は、生活を支えるための手段であり、その使い方は本人の生活のあり方と密接に関係しています。
例えば、資産を維持することを優先するのか、それとも生活の質を高めるために活用するのかといった判断は、両者を統合的に考える必要があります。
意思決定支援との関係
意思決定支援の観点から見ると、この問題はさらに重要になります。
単に財産を守るだけでなく、その財産をどのように使うかという意思決定を支えることが求められます。
この際には、本人の価値観や生活の希望を踏まえた判断が必要となります。
税理士の関与の限界と可能性
税理士は財産管理の専門家であり、この領域において大きな役割を果たすことができます。
しかし、身上保護については専門外であることも多く、その関与には限界があります。
一方で、財産の使い方という観点からは、身上保護と密接に関わる場面も多く存在します。この点において、税理士は重要な役割を担う可能性があります。
連携の重要性
この問題を適切に扱うためには、他の専門職との連携が不可欠です。
医療や介護の専門家と情報を共有しながら、本人にとって最適な支援を検討することが求められます。
単独で完結するのではなく、複数の視点を統合することが重要となります。
制度の本質的な課題
財産管理と身上保護のバランスの問題は、成年後見制度の本質的な課題の一つです。
制度の理念としては両者が重視されているものの、実務ではそのバランスが十分に取れていない状況があります。
このギャップをどのように埋めるかが、今後の制度運用における重要なテーマとなります。
結論
成年後見制度は、財産管理と身上保護の両面を持つ制度であり、そのバランスをどのように取るかが核心となります。
財産を守ることだけでなく、その財産をどのように活用し、本人の生活を支えるかという視点が不可欠です。
税理士としても、この二つを分断して考えるのではなく、統合的に捉えることが求められます。
次回はシリーズの総括として、成年後見制度を通じて見えてくる税理士の新しい役割について整理します。
参考
東京税理士協同組合教育情報事業 配布資料 全国統一研修会 成年後見制度に関する資料
最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 令和7年3月