高齢期の就労は、単なる収入確保の問題ではありません。年金制度、社会保険料負担、税制の三つが交錯する局面に入ります。特に70歳到達前後は制度の取り扱いが変わるため、働き方の設計を誤ると、想定外の負担や機会損失につながることがあります。本稿では、70歳前後での制度の違いを整理し、設計上の視点を提示します。
1 69歳までと70歳以降の制度差
まず押さえるべきは、70歳到達を境に厚生年金の被保険者資格がなくなる点です。
69歳まで
・厚生年金の被保険者
・給与に対して厚生年金保険料を負担
・在職老齢年金の対象
70歳以降
・厚生年金の被保険者ではない
・厚生年金保険料の負担なし
・在職老齢年金制度は引き続き適用
つまり、在職老齢年金による支給停止の仕組みは70歳以降も継続しますが、保険料負担はなくなります。この点が最も大きな制度差です。
2 保険料負担と将来給付の関係
69歳まで働く場合、厚生年金保険料を負担します。その代わり、被保険者期間が延びることで年金額の増額が見込まれます。
しかし、70歳以降は保険料を負担しません。その代わり、報酬比例部分の積み増しは行われません。
ここでの論点は、「追加保険料による将来増額」と「現在の手取り確保」のどちらを重視するかです。
短期間の就労では年金増額効果は限定的である一方、保険料負担は即時に発生します。70歳直前での働き方変更は、収支バランスに大きく影響します。
3 在職老齢年金との組み合わせ
在職老齢年金は、給与と老齢厚生年金の合計が基準額を超えると支給停止が生じます。70歳以降もこの仕組みは変わりません。
したがって、
・69歳まで:保険料負担あり+支給停止あり
・70歳以降:保険料負担なし+支給停止あり
という構造になります。
高水準の報酬がある場合、年金は減額され、かつ保険料も負担する69歳までの期間は、手取りが圧縮されやすい局面といえます。
4 繰下げ受給との関係
70歳前後では、老齢年金の繰下げ受給も検討対象になります。受給開始を遅らせることで年金額は増額されます。
高報酬で働き続ける場合、在職老齢年金で減額されるのであれば、繰下げを選択するという設計も考えられます。
ただし、繰下げは生涯年金の総額に影響する重要な選択です。健康状態や資産状況、配偶者の受給状況など、総合的な検討が必要です。
5 企業側の設計論点
企業にとっても、70歳到達は重要な分岐点です。
・再雇用条件の見直し
・役員から顧問への移行
・報酬水準の調整
保険料負担がなくなる70歳以降は、企業側のコスト構造も変わります。個人と企業の双方にとって合理的な報酬設計を検討することが求められます。
6 設計の基本視点
70歳到達前後で働き方を設計する際には、次の三点を同時に確認する必要があります。
第一に、社会保険料負担の有無。
第二に、在職老齢年金による支給停止額。
第三に、将来年金額の増減。
いずれか一つだけで判断すると、全体像を見誤ります。
結論
70歳到達前後は、制度の取り扱いが変わる転換点です。保険料負担がなくなる一方で、在職老齢年金の仕組みは継続します。
短期的な手取りと長期的な給付のバランスをどのように設計するかは、個々の状況によって異なります。年金制度、社会保険料、税制を横断的に整理し、自身の就労計画に照らして検討することが不可欠です。
高齢期の働き方は、制度の理解がそのまま経済的結果に直結します。70歳という節目を、受動的に迎えるのではなく、戦略的に設計する視点が求められます。
参考
税のしるべ 2026年2月23日
「4月から在職老齢年金制度を見直し、給与のみの場合との控除額の差の問題が顕在化」
厚生労働省 年金制度改正法関連資料
日本年金機構 在職老齢年金制度の概要資料
