1億円の壁は終わりではなく始まりだった 超富裕層課税の新時代

税理士
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日本では長らく「1億円の壁」が問題視されてきました。所得が増えるほど税率が高くなるはずなのに、一定以上の高所得者になると実効税率が下がる現象です。

その背景には、株式譲渡益や配当所得などの金融所得が分離課税となっている税制の仕組みがあります。

こうした状況を是正するために導入されたのが「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」です。令和7年分の確定申告から初めて適用され、その実態が明らかになりました。

今回の結果は、日本社会の資産構造や今後の税制改革を考える上で非常に示唆に富む内容となっています。

初年度の対象者は744人

令和7年分の確定申告において、この特例の適用を受けた人は744人でした。

制度創設時、政府は対象者を200人から300人程度と見込んでいました。しかし実際にはその2倍以上となりました。

対象者が大幅に増えた背景には、近年の株価上昇や不動産価格の上昇があります。

特に日本では2023年以降、株式市場が大きく上昇しました。企業のガバナンス改革や海外投資家の資金流入、円安効果などが重なり、高額な株式譲渡益を得る人が急増しました。

また、都市部を中心とした不動産価格の上昇も富裕層の資産価値を押し上げています。

税制改正時の想定を超える対象者数は、日本において超富裕層が増加していることを示しています。

なぜ「1億円の壁」が生まれるのか

給与所得者の場合、所得税率は最高45%です。

一方で、上場株式の譲渡益や配当所得には約20%の税率が適用されます。

そのため、所得の大部分が金融所得で構成される超富裕層は、一般の高所得サラリーマンより実効税率が低くなる場合があります。

これが「1億円の壁」と呼ばれる現象です。

所得が増えるほど税負担率が下がるという状況は、税制の公平性の観点から長年議論されてきました。

今回の特例は、この歪みを部分的に修正するために導入された制度です。

税制の考え方が大きく変わった

今回の制度で注目すべき点は、税率が引き上げられたことではありません。

税負担率に最低ラインが設けられたことです。

令和7年分では、

「(合計所得金額-3億3000万円)×22.5%」

で計算した金額が通常の所得税額を上回る場合、その差額を追加納税する仕組みとなっています。

これは従来の税率体系とは異なる考え方です。

税率そのものを変更するのではなく、「最低負担率」を設定する発想です。

世界的にも富裕層課税ではこの考え方が広がりつつあります。

今後、日本の税制においても重要な考え方になる可能性があります。

令和9年からさらに対象拡大へ

さらに注目すべきは、令和9年分から制度が大幅に強化されることです。

現行制度では年間所得30億円程度が実質的な対象ラインでした。

しかし改正後は、

「(合計所得金額-1億6500万円)×30%」

へと変更されます。

その結果、年間所得6億円程度から追加負担が発生するとされています。

金融所得だけの場合は約3億4000万円程度から対象になる見込みです。

対象者数は約2000人と予測されています。

しかし近年の資産価格上昇を考えると、実際にはさらに多くの人が対象になる可能性があります。

富裕層課税の本当の目的

この制度の目的は単なる増税ではありません。

最大の目的は税制の公平性を高めることです。

一般的な会社員や事業者が高い税率で課税される一方、金融所得中心の超富裕層の負担率が低い状態が続けば、税制に対する信頼は損なわれます。

また、社会保障費の増加や財政赤字の拡大が続く中で、一定の負担能力を持つ層に応分の負担を求めるという政策的な意図もあります。

今後の高齢化社会を支える財源確保という側面も見逃せません。

資産家が考えるべきこと

今回の制度改正によって、多くの人が直ちに影響を受けるわけではありません。

しかし資産形成を進めている経営者や投資家にとっては重要な変化です。

今後は単純な節税だけではなく、

・資産の分散
・法人活用
・事業承継対策
・相続対策
・国際税務への対応

などを含めた総合的な資産戦略が求められる時代になります。

税率だけを見るのではなく、制度全体の方向性を理解することが重要です。

結論

極めて高い水準の所得に対する負担適正化措置は、初年度から744人が対象となり、政府の想定を大きく上回りました。

これは株価や不動産価格の上昇によって、日本でも超富裕層が増加していることを示しています。

そして今回の制度は単なる増税ではありません。税制の公平性を重視する方向への大きな転換点でもあります。

令和9年からは対象範囲が大幅に広がる予定です。今後は「1億円の壁」の是正にとどまらず、資産課税全体のあり方が問われる時代になるでしょう。

私たちは単に税率の変化を見るのではなく、日本社会がどのような公平性を求めているのか、その大きな流れを理解することが重要ではないでしょうか。

参考

税のしるべ
2026年6月1日
極めて高い水準の所得の負担適正化措置の初年の適用者は744人、導入時の想定数を上回る

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