高齢期就労シリーズ総括―制度横断で見る設計思考

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高齢期に働くことは、もはや特別な選択ではありません。人手不足の進行や平均寿命の延伸を背景に、高齢期就労は社会の前提となりつつあります。

本シリーズでは、在職老齢年金の見直しを起点に、税制、社会保険料、標準報酬月額、70歳前後の制度差、さらには家族・遺族年金への影響まで整理してきました。

ここで改めて確認したいのは、高齢期就労は「損得」ではなく「設計」の問題であるという点です。本稿では、その全体像を制度横断で整理します。

1 年金制度の視点―支給停止と積み増し

在職老齢年金制度は、給与と老齢厚生年金の合計が一定額を超えると年金の一部を支給停止する仕組みです。基準額の引き上げにより、減額されにくくなりました。

しかし、支給停止は「将来の年金権が消える」ことを意味しません。あくまで当面の支給調整です。

一方で、69歳まで厚生年金に加入して働けば、報酬比例部分は積み増されます。つまり、

・現在の受給調整
・将来の給付増額

は別の軸で動いています。

この二つを同時に見なければ、制度の意図を読み誤ります。

2 社会保険料の視点―負担と給付の関係

高齢期就労では、給与に応じた厚生年金保険料・健康保険料の負担が生じます。

69歳まで
・保険料負担あり
・将来給付の積み増しあり

70歳以降
・保険料負担なし
・積み増しなし

この差は設計上の大きな転換点です。

短期的には保険料負担が重く見えますが、長期的には給付との関係で評価すべき問題です。

3 税制の視点―控除と公平性

給与と年金の双方がある場合、給与所得控除と公的年金等控除が適用されます。

在職老齢年金の見直しにより、年金受給額が増える局面では、この控除構造の差が顕在化します。そのため、控除合計額に上限が設けられました。

税制は、就労促進と公平性のバランスを取る役割を担っています。

高齢期就労は、年金制度だけでなく税制調整の対象でもあることを理解する必要があります。

4 標準報酬月額という実務の鍵

在職老齢年金の判定基礎は、実際の給与ではなく標準報酬月額です。賞与の月割換算も含まれます。

報酬設計次第で、

・支給停止額
・保険料負担
・税負担

が変わります。

制度は固定的ですが、働き方や報酬設計には選択の余地があります。

5 世帯単位での設計

高齢期就労は、本人の問題にとどまりません。

・配偶者加給年金
・振替加算
・遺族厚生年金

に影響します。

69歳までの加入期間延長は、将来の遺族給付にも反映されます。

制度は個人単位で構築されていますが、生活は世帯単位です。設計は世帯単位で行う必要があります。

6 設計思考とは何か

高齢期就労を設計するとは、次の三点を横断的に整理することです。

第一に、短期の手取り。
第二に、長期の年金給付。
第三に、世帯全体の保障構造。

いずれか一つだけを見れば誤った結論に至ります。

「働くと損か得か」という問いは、制度の一断面しか見ていません。

重要なのは、

・どの年齢で
・どの報酬水準で
・どの受給方法を選び
・どの期間働くのか

を意識的に組み立てることです。

結論

高齢期就労は、制度に従うだけの受動的な行為ではありません。年金制度、社会保険料、税制、そして家族保障を横断して設計する能動的な選択です。

制度は複雑ですが、構造を理解すれば選択肢は広がります。理解しなければ、制度の表面だけで判断することになります。

人生100年時代において、高齢期は終盤ではなく持続可能な生活設計の一部です。

高齢期就労は損得の問題ではありません。制度横断で考える「設計思考」こそが、その核心といえます。

参考

税のしるべ 2026年2月23日
「4月から在職老齢年金制度を見直し、給与のみの場合との控除額の差の問題が顕在化」

厚生労働省 年金制度改正法関連資料
日本年金機構 在職老齢年金制度および遺族年金制度の概要資料

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