高齢期就労は「損得」ではなく「設計」の問題

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高齢期に働き続けるかどうか。この問いは、しばしば「働くと年金が減るのか」「社会保険料を払うと損ではないか」といった損得の議論に矮小化されがちです。

しかし、在職老齢年金制度の見直しや控除上限の導入など、近年の制度改正の流れを見れば明らかなように、高齢期就労は単純な有利・不利では語れません。本質は「制度をどう理解し、どう組み合わせるか」という設計の問題です。

本稿では、高齢期就労を設計論として整理します。

1 制度は三層構造で動いている

高齢期就労を考える際には、次の三層を同時に見る必要があります。

第一に、年金制度(在職老齢年金・繰下げ受給など)。
第二に、社会保険料負担(厚生年金・健康保険)。
第三に、税制(給与所得控除・公的年金等控除・控除上限)。

例えば、在職老齢年金の基準額が引き上げられれば、年金減額は緩和されます。しかし給与が高ければ社会保険料負担は増えます。さらに、控除上限が導入されれば税負担が調整されます。

いずれか一つだけを見て「得か損か」を判断することはできません。

2 短期の手取りと長期の給付

高齢期就労の判断軸は、「今の手取り」と「将来の給付」のバランスです。

69歳まで厚生年金に加入して働けば保険料は負担しますが、将来の年金額は増えます。一方、70歳以降は保険料負担がなくなりますが、報酬比例部分の積み増しはありません。

さらに、繰下げ受給を選択すれば、年金額は増額されますが、受給開始は遅れます。

短期的に有利に見える選択が、長期では不利になる場合もあります。逆もまた然りです。

3 就労設計は収入設計でもある

高齢期就労は、単に「働くか・働かないか」ではありません。

・フルタイムか短時間か
・役員か嘱託か顧問か
・給与水準をどこに設定するか
・賞与をどう設計するか

標準報酬月額や在職老齢年金の基準額を踏まえれば、報酬設計次第で支給停止額や社会保険料負担は大きく変わります。

制度は固定されていますが、働き方は選択可能です。ここに設計の余地があります。

4 政策の方向性をどう読むか

制度改正の流れは明確です。高齢者の就労を促進しつつ、過度な税制優遇は調整するという方向です。

在職老齢年金の基準額引き上げは就労促進の象徴です。一方で、給与所得控除と公的年金等控除の合計上限は公平性確保の措置です。

つまり、「働いてほしいが、制度のバランスは崩さない」という政策意図が読み取れます。

この方向性を踏まえれば、制度は今後も微調整を続ける可能性があります。設計は固定的ではなく、常に見直しを前提に行うべきです。

5 損得思考からの転換

「働くと年金が減るから損」
「保険料を払うのはもったいない」

このような発想は、制度の一面だけを見た判断です。

高齢期就労は、

・所得分散の手段
・社会参加の機会
・将来給付の積み増し
・企業との関係維持

といった複数の意味を持ちます。

経済的側面だけでなく、人生設計の一部として位置付けることが重要です。

結論

高齢期就労は、損得の問題ではありません。年金制度、社会保険料、税制の三層を横断し、自身の資産状況や健康状態、働き方の希望を踏まえて組み立てる「設計」の問題です。

制度は複雑ですが、理解すれば選択肢が広がります。理解しなければ、制度に振り回されます。

人生100年時代において、70歳は終点ではなく一つの通過点です。高齢期の働き方は、受動的に決まるものではなく、自ら設計すべきテーマといえます。

参考

税のしるべ 2026年2月23日
「4月から在職老齢年金制度を見直し、給与のみの場合との控除額の差の問題が顕在化」

厚生労働省 年金制度改正法関連資料
日本年金機構 在職老齢年金制度の概要資料

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