2023年10月のインボイス制度開始から2年。
2026年には次のステージとして、電子インボイス制度(Peppol方式)が本格導入されます。
これにより、紙やPDFの請求書ではなく、標準化された電子データ形式でのやり取りが主流になります。
単なるIT化ではなく、消費税・会計・税務を一体で処理できる新しい仕組みです。
本稿では、電子インボイス制度の仕組みと、会計ソフト連携を中心とした実務対応を解説します。
電子インボイス制度とは
電子インボイスとは、適格請求書(インボイス)を電子データ形式でやり取りする仕組みです。
この標準形式として採用されるのが「Peppol(ペポル)方式」。
欧州を中心に世界各国で利用されており、日本ではデジタル庁・国税庁が主導して導入を進めています。
【制度の目的】
- 消費税の仕入税額控除を正確・効率的に処理
- 紙・PDF請求書の手入力ミスや紛失を防止
- 会計・税務データを自動連携
- 中小事業者の事務負担を軽減
インボイスの発行・受領・保存をすべて電子データで完結させることで、
事務効率と税務透明性を同時に高める狙いがあります。
Peppol方式の仕組み
Peppolは、国際標準の電子取引ネットワークであり、
日本では「JP PINT」という国内仕様に準拠したフォーマットが採用されます。
【電子インボイスの流れ】
- 発行側の会計ソフトがPeppol対応インボイスを作成
- Peppolネットワークを通じて受領側のシステムに自動送信
- 受領側ではデータが自動仕訳・保存され、税務処理まで反映
これにより、請求から経理・消費税申告までが「データ連携で一気通貫」になります。
PDFやメール送信による請求書とは異なり、“構造化データ”として機械処理できるのが最大の特徴です。
会計ソフトとの連携
主要なクラウド会計ソフトは、2025年中にPeppol方式対応を完了予定です。
| ソフト名 | 対応状況(2025年時点) | 特徴 |
|---|---|---|
| 弥生シリーズ | 対応準備中(Peppol連携API開発中) | 中小企業・個人向けに自動仕訳連携強化 |
| freee会計 | 2025年初頭から電子インボイス送受信に対応 | インボイス登録番号・税率判定を自動処理 |
| Money Forwardクラウド | 2025年春リリース予定 | 取引先のインボイス番号検証機能を内蔵 |
すでに国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」と自動照合する機能も整いつつあり、
「登録番号→税率→消費税額→仕訳」までが自動化されます。
実務フローの変化
電子インボイス導入により、従来の請求書業務は次のように変わります。
| 従来の流れ | 電子インボイス導入後 |
|---|---|
| PDFや紙で請求書送付 | Peppolネットワーク経由で送信 |
| 経理担当が手入力で仕訳 | 会計ソフトが自動読み込み・自動仕訳 |
| ファイルサーバで保存 | 電帳法対応クラウドで自動保存 |
| 消費税申告時に再集計 | データ連携により自動集計・送信 |
特に個人事業主・小規模法人では、「会計入力の自動化」と「インボイス保存義務の自動対応」が同時に進みます。
導入準備のステップ
電子インボイス制度への対応は、以下のステップで進めると確実です。
- 自社が適格請求書発行事業者か確認(未登録の場合は登録申請)
- Peppol対応の会計ソフトまたは請求書システムを選定
- 取引先の対応状況を確認(電子受領可否の調査)
- 社内ルール・マニュアル整備(発行・受領・保存フローを統一)
- 試験運用で送受信テストを実施
なお、電子保存環境(電帳法対応クラウド)は必須です。
Peppol通信自体は安全ですが、保存ルールを誤ると帳簿保存要件を満たさなくなります。
税務上の留意点
電子インボイスでやり取りされた取引は、仕入税額控除の根拠書類として扱われます。
そのため、次の点に注意が必要です。
- Peppol形式以外の請求書(PDF・紙)も当面は有効だが、順次縮小予定
- 消費税率・取引区分が誤っていると自動仕訳も誤る
- 電子インボイスを受領した場合、紙に出力して保管しても無効(電帳法の電子保存義務あり)
つまり、電子インボイスを導入する場合は、同時に電子帳簿保存法対応を済ませることが前提となります。
中小事業者向け支援策
政府は、電子インボイス導入を支援するため、
中小企業・個人事業主を対象とした補助金・助成策を段階的に拡充しています。
- IT導入補助金(デジタル基盤導入類型)
Peppol対応会計ソフトや電子請求書システムの導入費を補助(補助率最大2/3)。 - 経理DX支援事業(中小企業庁)
税理士・IT事業者による導入支援を無償または低額で提供。 - 電子インボイス推進協議会(EIPA)
中小事業者向けの説明会・ガイドラインを全国展開。
これらの制度を活用し、2025年中に電子対応体制を整備しておくことが理想です。
結論
電子インボイス制度(Peppol方式)は、単なる請求書の電子化ではなく、
「会計・税務・請求・保存」の完全データ連携を実現する新しい税務インフラです。
2026年の本格稼働に向けて、今後2年間が準備期間の山場となります。
クラウド会計・電帳法・e-Taxの三位一体運用を早めに整え、
紙からデータへの移行をスムーズに進めることが、今後の税務実務の競争力を左右します。
出典
・デジタル庁「電子インボイス(Peppol)推進協議会」
・国税庁「インボイス制度と電子インボイスの概要」
・中小企業庁「IT導入補助金 2025年度版」
・電子インボイス推進協議会(EIPA)資料
・令和7年度税制改正大綱(2024年12月)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
