資産承継という“設計行為”は制度化されるのか 専門家の役割の未来

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資産承継はこれまで、相続・遺言・税務といった個別制度の組み合わせとして扱われてきました。
しかし実務の現場では、それらを単に処理するだけでは不十分であることが明らかになっています。

資産承継は本質的に「設計行為」です。
誰に、どの資産を、どのタイミングで承継させるかという全体構成を描くプロセスです。

では、この設計行為は制度として位置づけられるのでしょうか。
本稿では、資産承継の未来における制度と専門家の役割を考えます。


現在の制度は「処理」を前提としている

現行制度は、資産承継を「発生後に処理するもの」として設計されています。

・相続発生後の遺産分割
・相続税の申告
・名義変更などの手続

これらはいずれも、すでに起きた事実を前提とした処理です。

一方で、

・どのように分けるか
・税負担をどう最適化するか
・将来の資産運用をどうするか

といった「設計」の部分は、制度として明確に位置づけられていません。


設計は重要だが制度外に置かれている

資産承継の質を決定するのは、処理ではなく設計です。

しかし現状では、

・設計は専門家の裁量に委ねられる
・標準的な手法や責任範囲が定義されていない
・制度としての裏付けが存在しない

という状態にあります。

その結果、

・設計の質にばらつきが生じる
・責任の所在が曖昧になる
・依頼者が適切な判断をしにくい

という問題が発生しています。


なぜ制度化されてこなかったのか

資産承継の設計が制度化されてこなかった理由はいくつかあります。

第一に、個人の意思が強く関わる領域であることです。
資産承継は家族関係や価値観と密接に結びついており、一律のルールで設計することが難しい側面があります。

第二に、複数の制度にまたがる領域であることです。
民法、税法、不動産法、金融制度などが交差するため、単一の制度として整理しにくい構造があります。

第三に、専門家の分業が前提となっていることです。
各領域の専門家が個別に対応することで、全体設計の必要性が見えにくくなっていました。


しかし実務はすでに「設計」を求めている

一方で、実務の現場では明らかに変化が起きています。

・遺言と税務を一体で考える必要性の高まり
・遺贈寄付や事業承継の複雑化
・資産構成の多様化

これらにより、「処理だけでは対応できない」という認識が広がっています。

結果として、実務では非公式に「設計」が行われています。

ただし、それは制度に裏付けられたものではなく、
個々の専門家の力量や経験に依存しています。


設計行為は制度化されるのか

今後、この設計行為が制度化される可能性はあるのでしょうか。

結論としては、「部分的な制度化」は進む可能性があります。

例えば、

・ガイドラインの整備
・専門家間の連携ルールの明確化
・説明義務の強化

といった形で、設計プロセスの透明性が高まる方向です。

しかし、

・誰が設計者になるのか
・最終責任を誰が負うのか

といった核心部分については、完全な制度化は難しいと考えられます。


制度化されない前提でどう考えるか

重要なのは、「完全な制度化はされない」という前提で実務を考えることです。

そのうえで必要なのは、

・設計者の役割を明確にすること
・専門家間の連携を意識的に構築すること
・依頼者への説明責任を強化すること

です。

制度に依存するのではなく、実務の中で設計機能を補完していく必要があります。


専門家の役割はどう変わるのか

この流れの中で、専門家の役割も変化していきます。

従来は、

・税理士は税務
・弁護士は法務

という分業が中心でした。

今後は、

・全体を俯瞰する設計機能
・他専門家との連携を前提とした役割

が求められます。

特に税理士は、資産全体と税務を結びつける立場にあるため、
設計の中心的役割を担う可能性があります。


結論

資産承継は、もはや単なる手続ではなく設計行為です。

しかし、その設計は制度として十分に位置づけられておらず、
実務の中で補完されているのが現状です。

今後、部分的な制度整備は進むものの、
設計そのものが完全に制度化される可能性は高くありません。

だからこそ、専門家には「設計する力」と「統合する視点」が求められます。
資産承継の質は、制度ではなく設計によって決まる時代に入っています。


参考

日本経済新聞 2026年3月26日 朝刊
私見卓見「遺贈寄付、運用の透明性を高めよ」今藤里子

国税庁 相続税法基本通達

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