国が引き取る「負動産」の処分促進が議論されています。しかし実務の現場では、より切実な問題があります。
それは、「売れない土地にも相続税評価は付く」という現実です。
市場で流通しない土地であっても、相続税の世界では評価が行われ、税額に影響を与えます。本稿では、負動産と相続税評価の実務上の論点を整理します。
市場価値と税務評価は一致しない
相続税評価は、実勢価格とは必ずしも一致しません。
宅地であれば路線価方式または倍率方式により評価されます。
路線価は公示価格の約8割を目安に設定されていますが、地方の流動性の低い土地では「売却困難=ゼロ」にはなりません。
つまり、
- 売れない
- 買い手がいない
- 収益を生まない
という土地でも、課税対象になります。
これが「負動産の税務リスク」です。
評価減の可能性はどこまであるか
実務上、次のような減額要素は検討対象になります。
1. 不整形地補正
2. 無道路地補正
3. 間口狭小補正
4. 奥行価格補正
5. 崖地補正
ただし、これらはあくまで画一的補正であり、「需要がない」という理由だけでは評価は下がりません。
また、山林や農地も評価体系が定められており、ゼロ評価は原則ありません。
利用価値の著しい減少がある場合
実務で重要なのは、「特別な事情」に該当するかどうかです。
例えば、
- 土壌汚染
- 埋設物
- 文化財制限
- 重要な法的制限
など、客観的な価値減少要因があれば、個別評価や鑑定評価を検討する余地があります。
しかし単に「需要がない」だけでは困難です。
相続土地国庫帰属制度との関係
ここで問題になるのが、相続税申告後に国庫帰属を申請するケースです。
相続税評価では一定の価値が認定され、税を納めた後に、最終的に国へ帰属させる。結果として、経済的価値を享受していないにもかかわらず、税負担だけが残るという構造になります。
制度上は矛盾していませんが、納税者感覚としては強い違和感があります。
生前対策の重要性
負動産が想定される場合、相続開始前の対策が極めて重要です。
1. 早期売却の検討
2. 共有整理
3. 法人移転の可否検討
4. 利用転換(駐車場・太陽光など)
5. 相続人間の承継意思確認
特に共有状態は、将来の処分をさらに困難にします。
“持ち続けるリスク”という発想
高度成長期は、土地は保有していれば値上がりする資産でした。
しかし人口減少社会では、
- 管理コスト
- 固定資産税
- 相続手続負担
- 将来の処分困難
という“負担資産”化が進みます。
相続税評価は形式的に価値を認定しますが、経済的価値とは必ずしも一致しません。
このギャップを理解した上での設計が必要です。
結論
負動産問題は、税務実務に直接的な影響を与えます。
売れない土地にも評価は付く。
評価が付けば課税が生じる。
したがって、
相続発生後の対応ではなく、
相続発生前の設計こそが本質です。
人口減少社会における相続設計は、「資産を増やす」ことよりも「負担を残さない」ことが中心テーマになります。
次回は、空き家特例と帰属制度の交錯について整理します。
参考
・日本経済新聞「国の『負動産』処分を促進」2026年2月28日朝刊
・国税庁 財産評価基本通達
・法務省 相続土地国庫帰属制度資料
