親が長年かけて育てたNISA資産。
相続手続きを終えると、NISAの非課税枠は消滅し、
相続人の課税口座に移管されます。
しかし、それは「終わり」ではありません。
相続後こそ、次の資産形成のスタート地点。
受け取った株式や投資信託をどう活かすか。
それが「第二のNISA設計」のテーマです。
🧭 Step1:まず“受け継いだ資産”の棚卸しから
相続後の第一歩は、冷静な現状把握です。
感情や思い出よりも、数字で全体像を整理しましょう。
📋 棚卸しのチェックリスト
- 相続で受け取った銘柄・投資信託の一覧
- 評価額と購入価格(死亡日の終値)
- 分配金・配当履歴
- 現金残高・その他の金融資産
この一覧を作るだけで、「どの資産を保有・売却すべきか」の判断がつきやすくなります。
💡ワンポイント
金融機関によっては「相続資産一覧表」や「評価明細書」を発行してくれます。
これをExcelなどに転記して“自分のポートフォリオ”として再設計しましょう。
💰 Step2:売却か保有か ― 判断基準を明確にする
相続した株式・投信を「そのまま持つ」か「売却する」か。
ここでの判断は、故人の思い出ではなく、相続人の目的・リスク許容度で決めましょう。
▪️売却を検討したほうがよいケース
- 個別株が集中しており、リスクが高い
- 銘柄が古く、成長性が乏しい
- 投資信託のコストが高い(信託報酬1.0%以上)
- 自分の生活資金や老後計画と合わない
▪️保有・再投資を検討するケース
- 配当・分配金が安定している
- 長期的なテーマ(インデックス・ESG・世界株など)
- 自分のリスク許容度に合っている
FP的アドバイス
「親の投資方針」よりも「自分の人生設計」に沿って考えること。
相続した瞬間から、それはあなた自身のポートフォリオになります。
🧮 Step3:“第二のNISA”をどう設計するか
新NISAは生涯非課税で、成長投資枠とつみたて投資枠の併用が可能です。
相続した資金をうまく再投資することで、“第二の非課税資産づくり”が可能になります。
📘 例:相続資産300万円をNISAに再投資する設計イメージ
| 枠 | 投資内容 | 割合 | コメント |
|---|---|---|---|
| つみたて投資枠(年間120万円) | eMAXIS Slim全世界株など | 40% | 長期成長軸。自動積立で運用効率化。 |
| 成長投資枠 | 国内高配当ETF・インフラファンド | 40% | 配当収入を再投資。安定運用を重視。 |
| 現金・短期投資 | MRF・個人向け国債など | 20% | リスク調整用。相場変動に備える。 |
🔍 ポイント
- “相続=まとまった資金”を“分散投資の好機”と捉える
- 一度に全額を投資せず、「時間分散(ドルコスト平均法)」を意識する
- 配当金や分配金を「再投資」すれば、長期で非課税メリットが積み上がる
🪙 Step4:「配当で生活」ではなく「再投資で育てる」
相続した世代(多くは40~60代)は、
「配当金で生活を支える」よりも「老後に備えて資産を育てる」時期にあります。
したがって、
受け取った配当金・分配金をそのまま使うのではなく、
NISA内での再投資を基本方針にしましょう。
- 配当金を自動再投資する投信(再投型)を選ぶ
- 分配金を積立原資に充てる
- 年1回、ポートフォリオをリバランス
📈「相続資産を“減らさず使う”」よりも
「“育てながら使う”」の発想が、長期運用の鍵になります。
🧑💼 Step5:税・相続・運用の“トリプル視点”を持つ
NISAを相続したあとの資産運用では、
税金・相続・運用の3つの視点をバランスよく持つことが重要です。
| 視点 | 内容 | 具体策 |
|---|---|---|
| 税 | 売却益・配当課税の確認 | 年間譲渡益を確定申告で管理 |
| 相続 | 次世代への承継準備 | 自身のNISAも「終活リスト」に記載 |
| 運用 | リスクとリターンの最適化 | 年齢・目的別ポートフォリオ設計 |
「親のNISA」をきっかけに、
“自分の相続準備”も始める。
これが、最も実務的で持続的な資産管理の姿です。
💬 FP・税理士からのメッセージ
親から相続したNISAは、
単なるお金ではなく、“生きた学びの資産”です。
- 長期投資の大切さ
- 分散と継続の効果
- 非課税制度の恩恵と限界
それらを次の世代にどうつなぐか。
「第二のNISA設計」は、家族の金融リテラシーを高める絶好の機会でもあります。
🧾 まとめ ― 相続NISAを“未来のNISA”に変える
| ステップ | 内容 | キーアクション |
|---|---|---|
| 1 | 棚卸し | 相続資産を一覧化 |
| 2 | 判断 | 売却・保有の基準を設定 |
| 3 | 設計 | 新NISAで再投資 |
| 4 | 再投資 | 配当・分配金を育てる資金に |
| 5 | 継承 | 自身の相続・終活も見据える |
🔑 相続されたNISAは“消える制度”ではなく、“続く仕組み”に変えられる。
そのための設計図こそが「第二のNISA設計」です。
出典・参考
- 日本経済新聞「NISA、相続は課税口座」(2025年10月25日)
- 金融庁「NISA統計(2024年末)」
- 国税庁「相続税の財産評価基本通達」
- 税理士法人チェスター・レガシィ解説資料
- 筆者FP事務所「NISA再設計プラン事例」より
📘 シリーズ総まとめ
1️⃣ NISAを相続したらどうなる?(仕組み編)
2️⃣ 親のNISAをどう整理するか(手続き編)
3️⃣ NISA×相続税(評価・課税編)
4️⃣ 遺言・生前贈与で備える(事前対策編)
5️⃣ 相続後の運用をどう続けるか(再設計編)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

