新NISAが始まってから1年半あまり。
親世代の「老後資金運用」が当たり前になり、
70歳以上のNISA口座はすでに450万件を突破しています(2025年6月末時点、金融庁調査)。
けれども――
相続の現場では「親のNISAをめぐるトラブル」も増えつつあります。
- 「どこの証券会社で運用していたのか分からない」
- 「相続人同士で誰が引き継ぐか揉めた」
- 「親が亡くなってから口座が凍結された」
こうしたケースを防ぐには、“亡くなる前”の準備が何よりも大切です。
今回は、FP・税理士の視点から、NISAをめぐる生前の3つの備えを紹介します。
🧾 備え①:「どこで・何を」運用しているかを共有する
最も多いトラブルが「親の金融資産の全体像が分からない」ケースです。
NISAは非課税口座のため、年間取引報告書や確定申告書からは見えにくいという特徴があります。
✅ チェックリスト
- NISA口座を開設している証券会社・銀行名
- 投資商品(株式・投資信託・ETFなど)
- 残高・評価額・取得価格
- 取引時のログイン情報(生前の整理帳やエンディングノートに記録)
💡ワンポイント
金融庁が推進する「口座情報照会システム」(マイナポータル連携)を利用すれば、
故人の金融機関口座を一括で確認できる場合もあります。
「どこにどれだけあるか」が把握できれば、
相続手続きもスムーズに進み、不要なトラブルを防げます。
🧠 備え②:遺言書に「金融口座の扱い」を明記する
相続人が複数いる場合、証券口座をどう分けるかは意外に揉めやすい部分です。
たとえば――
長男は「自分が株式を相続したい」、
次男は「現金で清算してほしい」と主張した場合、
評価のタイミングや価格変動によって公平性の判断が難しくなります。
そのため、遺言書の中で具体的に指定しておくのが有効です。
🧾 記載例
「○○証券のNISA口座に保有する株式および投資信託を、長男○○に相続させる。」
遺言書には、
- どの金融機関の口座か
- どの銘柄・投資信託か
を明確に記載しておくこと。
証券会社ごとに「遺言執行に関する事前登録制度」を設けている場合もあります。
事前に確認しておくと安心です。
💸 備え③:場合によっては「生前贈与」も選択肢に
親が高齢になり、
「運用を続けるのが難しい」「認知機能に不安がある」という段階になったら、
早めに資産の移転を検討するのも一案です。
🔹 方法1:課税口座へ払い出して贈与
親が生前にNISA資産を一度課税口座へ移管(売却・払い出し)し、
現金化または株式として子どもに贈与する方法です。
ただしこの場合、
- 売却益には課税(約20%)
- 年間110万円を超える贈与には贈与税
が発生するため、計画的な贈与が必要です。
🔹 方法2:親名義のまま“家族管理”体制を整える
「名義は親のまま、子が手続きを補助する」ケースも増えています。
ただし、金融機関に無断でログインや操作をするのはNG。
事前に「代理人制度」や「家族口座サポートサービス」を利用しましょう。
🏦 例:
野村證券・SMBC日興証券などでは、
本人同意のもと家族が相続準備を進められる制度を設けています。
⚖️ FP・税理士の視点から ― 家族で話し合う「NISAの終活」
NISAは非課税でありながら、実際には金融資産の一部として相続税の対象になります。
にもかかわらず、本人も家族も「どこで、何を持っているか」を知らないままというケースが多いのです。
NISAを“終活資産”として考えるなら、
次の3点を意識するのがおすすめです。
| 目的 | 行動の例 |
|---|---|
| 情報の共有 | 口座一覧を作り、家族と共有する |
| 意志の明確化 | 遺言書やエンディングノートで指定する |
| 負担の軽減 | 必要に応じて課税口座へ移管・生前贈与を検討する |
💬 税理士・FPのコメント
「NISAは“亡くなったらどうなるか”が明確でない分、
事前に話し合っておくだけで、相続トラブルの8割は防げます。」
🪙 まとめ ― “非課税口座”も“見える化”が大切
新NISAは「いつでも・誰でも・非課税で投資できる」制度ですが、
その分、相続時には複雑な手続きや税務が発生します。
- NISA口座は相続できない
- 死亡日で非課税が終了する
- 相続税の対象になる
- 遺言や贈与で整理しておくと安心
この4つを家族で共有しておくことが、
「お金の争い」を「資産のバトンリレー」に変える第一歩です。
出典・参考
- 日本経済新聞「NISA、相続は課税口座」(2025年10月25日)
- 金融庁「NISA統計(2024年末)」
- 国税庁「相続税の財産評価基本通達」
- 税理士法人レガシィ/チェスター 各解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
