新NISAが広がる中で、親世代の投資を引き継ぐケースが増えています。
その際に必ず関係してくるのが、「相続税の評価」です。
「NISAは非課税なんだから、相続税もかからないんでしょ?」
――そう思っている方は要注意です。
NISAの非課税は“運用益や配当”に対しての話であって、
相続税の課税対象から外れるわけではありません。
🧾 相続税の評価の基本 ― 「死亡日時点の時価」
相続税では、亡くなった日の時点での資産価値(時価)を基準に評価します。
NISA口座の中身(株式・投資信託など)も、すべてこの原則に従います。
| 評価対象 | 評価方法 | 備考 |
|---|---|---|
| 上場株式 | 死亡日の終値 | 複数上場市場がある場合は最も高い市場価格 |
| 投資信託 | 死亡日の基準価額 | 公募型の場合、証券会社が自動算出 |
| 現金残高 | 残高そのまま | NISA口座内の未投資資金も含む |
✅ ポイント
NISA口座であっても「課税資産」として評価します。
非課税扱いになるのは所得税・住民税上の話であり、
相続税の計算とは別です。
📘 図解:NISA相続の全体像
【死亡日】
↓(NISA口座終了)
非課税で課税口座へ払い出し(死亡日の終値で評価)
↓
【相続税評価】
死亡日時点の時価で申告対象へ計上
↓
【相続人の課税口座へ移管】
相続人の取得価額=死亡日の終値
↓
【売却】
売却価格-死亡日の終値=譲渡益(所得税課税)
🧮 具体例で見る評価と課税の流れ
例)故人がNISA口座でA社株を保有していた場合
| 項目 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 購入価格 | 500円 | 故人がNISAで購入 |
| 死亡日の終値 | 1,000円 | この時点でNISA終了・課税口座へ移管 |
| 相続税評価額 | 1,000円 | 相続財産として申告 |
| 相続人が後日売却 | 1,300円 | 差額300円が課税対象(譲渡所得) |
📍まとめると:
- 死亡時点までの値上がり分(+500円)は非課税(NISAの恩恵)
- 死亡日以降の値上がり分(+300円)は課税(譲渡所得)
- 相続税は1,000円×株数で評価して申告
🏦 相続税申告での実務ポイント
① 評価明細書を添付
証券会社から発行される「相続時評価明細」や「残高証明書」を基に計算します。
死亡日や価格算出根拠を明記しておくと、税務署からの確認がスムーズです。
② NISA資産も「金融資産の一部」として申告
NISA・特定・一般口座の区分を問わず、すべての金融資産を合算して申告します。
口座区分を分けて考えないよう注意。
③ 「評価損」が出ている場合
死亡日時点で評価額が下がっている場合も、その価格で申告します。
相続後に値上がりしても、それは相続人の譲渡益として扱われます。
👪 相続人に多い誤解と落とし穴
| よくある誤解 | 実際の取扱い |
|---|---|
| 「NISAだから相続税もかからない」 | ✕ 相続税の非課税ではない |
| 「相続人のNISAに移せば引き続き非課税」 | ✕ 制度上できない(課税口座へ移管) |
| 「死亡後すぐに売却しても税金がかからない」 | △ 売却時期次第。死亡日以降の値上がり分は課税対象 |
| 「評価証明がないので概算でいい」 | ✕ 必ず金融機関の評価明細で裏づけを取る |
💬 税理士・FPの視点から ― “NISAの相続”で損をしないために
NISAの相続対応は、「所得税の非課税」と「相続税の課税」という
異なる税目の仕組みを整理して理解することが大切です。
💡ワンポイントメモ
- NISA=「運用益の非課税制度」であって、財産そのものは課税対象
- 評価基準は「死亡日の時価」
- 売却時の課税計算は「死亡日の終値」が取得価格になる
親の資産を正しく引き継ぐためには、
相続発生前に「どの金融機関でどんな商品を持っているか」を把握しておくことが重要です。
“親のNISA棚卸し”を早めに行うことが、円滑な相続への第一歩になります。
📌 まとめ ― 「非課税」と「課税」の境界を整理しよう
| 区分 | 適用範囲 | 税の扱い |
|---|---|---|
| NISA期間中 | 売却益・配当 | 非課税(所得税・住民税) |
| 死亡後(相続発生) | 相続財産全体 | 課税(相続税) |
| 相続人の売却 | 譲渡益 | 課税(所得税・住民税) |
🔎 NISAは“税金がかからない制度”ではなく、
「どのタイミングでどの税がかかるか」を整理しておく制度です。
出典・参考
- 日本経済新聞「NISA、相続は課税口座」(2025年10月25日)
- 金融庁「NISA統計(2024年末)」
- 国税庁「相続税の財産評価基本通達」
- 税理士法人チェスター/レガシィ 各解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
