新年度が始まり、新しい職場環境に慣れてきた頃、多くの人が「これが普通」と感じている職場の慣習があります。しかし、その中にはすでに法令違反となり得る行為が含まれている可能性があります。
近年は、取引先との関係、従業員の保護、働き方に関する法規制が急速に強化されています。従来は見過ごされてきた慣行も、今では企業リスクとして顕在化しています。本稿では、最新の制度動向を踏まえ、職場で見直すべきポイントを整理します。
下請け・フリーランスとの関係は「配慮義務」の時代へ
業務の外部委託が一般化する中で、発注者側の責任は大きく変化しています。
2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(旧下請法)や、2024年11月施行のフリーランス法により、委託先との関係において以下の点が明確に求められるようになりました。
・業務内容、報酬、納期などの明示
・仕様変更や追加業務に対する適正な対価の支払い
・支払遅延や不当な減額の禁止
特に問題となるのは、次のような「暗黙の慣習」です。
・ついでにお願いと無償対応を求める
・納期を一方的に前倒しする
・追加作業を契約外で押し付ける
これらは従来のビジネス慣行では珍しくありませんでしたが、現在は違反行為として指導・勧告の対象となります。行政の摘発も活発化しており、企業名公表のリスクも現実のものとなっています。
重要なのは、「見えないコスト」を前提にした契約意識への転換です。すべての変更は記録に残し、対価とセットで合意することが不可欠です。
自爆営業はパワハラとして明確化へ
2026年10月から、いわゆる「自爆営業」がパワーハラスメントに該当することが明確化されます。
自爆営業とは、従業員に対して以下のような行為を強いるものです。
・売れ残り商品の購入強制
・家族名義での契約の要求
・ノルマ達成のための自己負担
これまで問題視されてきたものの、法的評価が曖昧な部分もありました。しかし、今後は次の3要件を満たす場合、パワハラと認定されます。
・優越的関係を背景とする
・業務上必要かつ相当な範囲を超える
・就業環境を害する
企業には防止義務が課され、具体的には以下の対応が求められます。
・社内方針の明確化
・相談窓口の設置
・迅速な是正措置
単なる営業努力の問題ではなく、企業統治の問題として扱われる点が重要です。
内部通報制度は「報復リスク」の時代へ
公益通報者保護法の改正により、通報者保護は大きく強化されます。
特に重要なポイントは次の2点です。
・報復人事に対する刑事罰の導入
・解雇等が通報に起因するとの推定規定
これにより、企業側の立証責任が実質的に重くなります。通報後1年以内の処分は、原則として通報との関連が疑われるため、企業は処分の合理性を詳細に説明する必要があります。
さらに、保護対象にはフリーランスも含まれることになりました。これは、外部委託先との関係においてもコンプライアンス体制が求められることを意味します。
内部通報制度は単なる形式ではなく、「実効性」と「信頼性」が問われる段階に入っています。
休日・深夜の連絡は労働時間リスクに直結する
テレワークの普及により、業務時間外の連絡は日常的になりました。しかし、これにも法的リスクがあります。
労働時間は、使用者の指揮命令下にあると評価される時間を指します。したがって、以下のようなケースでは労働時間と認定される可能性があります。
・返信を事実上強制する連絡
・業務対応を前提とした指示
・頻繁な時間外コミュニケーション
これを適切に管理しない場合、
・残業代未払い
・36協定違反
・過重労働による安全配慮義務違反
といった問題に発展します。
さらに、頻度や態様によってはハラスメントと評価される可能性もあります。単発では問題にならなくても、「継続性」がリスクを高める点に注意が必要です。
結論
現在の職場では、「昔からこうしている」という理由だけでは正当化できない時代になっています。
特に重要なのは以下の3点です。
・契約と対価を明確にする意識
・従業員への負担転嫁を排除する仕組み
・記録と説明責任を前提とした運用
法改正の本質は、企業活動における「力関係の是正」と「透明性の確保」にあります。これに対応できない企業は、法的リスクだけでなく、 reputational risk(評判リスク)も抱えることになります。
職場の常識を一度疑い、ルールに照らして再設計することが、これからの企業経営に求められる基本姿勢といえます。
参考
・日本経済新聞 朝刊 2026年5月4日
職場の常識、違法かも 下請けいじめNG、委託先への配慮必須 自爆営業はパワハラに
・日本経済新聞 朝刊 2026年5月4日
不正の報告、通報者を保護
・日本経済新聞 朝刊 2026年5月4日
休日・深夜の連絡 やりすぎに注意