続放棄されたマンションの行方 ― 所有者不在時代の都市リスク

税理士
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築古マンション問題を掘り下げていくと、最終的に行き着くのが「相続放棄」という問題です。

所有者が死亡し、相続人が全員相続放棄をした場合、その住戸はどうなるのでしょうか。
管理費や修繕積立金は誰が負担するのでしょうか。

相続放棄は、個人の合理的な選択である一方、マンションという共同財産においては重大な管理リスクを生みます。
本稿では、相続放棄されたマンションの法的帰結と都市政策上の課題を整理します。


相続放棄とは何か

相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務を一切承継しないことを家庭裁判所に申述する制度です。

相続放棄が認められると、その人は「初めから相続人でなかったもの」とみなされます。

その結果、

・資産も承継しない
・負債も承継しない

という効果が生じます。

築古マンションでは、

・資産価値が低い
・修繕積立金不足
・管理費滞納がある
・将来の負担が大きい

といった理由から、相続放棄が選択されるケースが増えています。


相続人全員が放棄した場合

相続人が全員放棄した場合、相続財産は法人化した存在として扱われ、「相続財産法人」となります。

その後、

・家庭裁判所が相続財産管理人を選任
・債権者への清算手続
・最終的に国庫帰属

という流れになります。

しかし、この手続は自動的には始まりません。
利害関係人が申立てを行い、予納金を納める必要があります。

マンション管理組合が申し立てる場合、一定の費用負担が発生します。


管理費・修繕積立金はどうなるか

相続放棄があっても、管理費や修繕積立金の債権は消滅しません。

ただし、

・請求先が存在しない
・管理人が選任されていない

という空白期間が生じます。

その間、滞納は累積し、他の区分所有者が間接的に負担する構造になります。

築古マンションでは、この空白期間が長期化する可能性があります。


国庫帰属後の現実

最終的に国庫帰属したとしても、問題が解決するとは限りません。

国は区分所有者の一人として扱われますが、積極的に再生を主導するわけではありません。

老朽化が進んだマンションでは、

・買い手がつかない
・競売でも落札されない

という事態も想定されます。

結果として、所有者不在に近い住戸が長期化する可能性があります。


管理組合ガバナンスへの影響

相続放棄住戸が増えると、

・議決権行使が困難
・特別決議が成立しない
・建替えが事実上不可能

という状況に陥ります。

区分所有法は一定の多数決原理を前提としていますが、所有者不在状態が増えると制度設計が想定していない局面に入ります。


なぜ今後増えるのか

今後、相続放棄が増えると予測される理由は明確です。

  1. 所有者の高齢化
  2. 修繕費・建替え費の高騰
  3. 資産価値の低下
  4. 単身高齢世帯の増加

相続人にとって「負の資産」と評価される住戸が増えれば、放棄は合理的選択になります。

個人にとって合理的な判断が、共同住宅全体にとっては不安定要因になるという構図です。


税制で対応できるか

マンション長寿命化促進税制は修繕を後押ししますが、相続放棄問題には直接作用しません。

固定資産税減額は、所有を引き受けるインセンティブにはなりにくいからです。

むしろ必要なのは、

・流通促進策
・低廉売却の仕組み
・管理不全住戸への特別措置

といった制度横断的対応です。

税制単独では限界があります。


都市政策の視点

相続放棄住戸が増えれば、

・管理不全
・空き住戸増加
・防災リスク上昇
・地域価値低下

といった波及が起こります。

これは空き家問題のマンション版ともいえます。

戸建て空き家と異なり、マンションは共同所有です。
一部住戸の機能不全が全体に影響します。


結論

相続放棄されたマンション住戸は、法的には最終的に国庫帰属へ向かいますが、その過程には長い空白期間があります。

その間、管理費滞納や議決不能状態が発生し、マンション全体の維持管理に重大な影響を及ぼします。

築古マンション問題は、老朽化の問題から、所有者不在問題へと進んでいます。

税制は修繕を促す手段として有効ですが、相続放棄という法的現象には直接対応できません。

今後は、相続制度・区分所有法・都市政策を横断する再設計が必要です。

築古マンション問題は、いまや「建物の寿命」だけでなく、「所有の継続可能性」を問う段階に入っています。


参考

税のしるべ 2026年2月16日
国土交通省 住宅税制のEBPMに関する有識者会議資料
法務省 相続登記義務化関連資料
区分所有法関連資料

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