築40年、50年を超える分譲マンションが増え続ける中で、もう一つ静かに進行している問題があります。
それが「相続未登記」です。
区分所有者の高齢化が進む一方で、相続登記が放置される事例が増えています。
築古マンション問題は、建物の老朽化だけでなく、所有関係の不明確化という新たな局面に入っています。
本稿では、築古マンションと相続未登記問題の関係を整理し、制度的課題を考察します。
相続未登記とは何か
相続未登記とは、所有者が死亡したにもかかわらず、相続登記が行われない状態をいいます。
令和6年4月から相続登記の申請は義務化されましたが、過去に発生した未登記案件は大量に存在しています。
築古マンションでは、
・所有者が高齢である
・相続人が遠方に居住している
・相続人間で協議が整っていない
・資産価値が低く、登記費用をかける動機が弱い
といった事情により、未登記が生じやすい環境があります。
相続未登記がもたらす管理上の支障
マンションは区分所有法に基づき、管理組合によって維持されます。
しかし、相続未登記が増えると、次の問題が発生します。
1 議決権行使が困難になる
総会決議には所有者の賛成が必要です。
登記名義人が既に死亡している場合、誰が議決権を行使できるのか不明確になります。
建替えや大規模修繕の合意形成が一層困難になります。
2 管理費・修繕積立金の滞納
相続人が不明、または関与しない場合、管理費や修繕積立金の滞納が発生します。
滞納の増加は、他の所有者への負担転嫁につながり、管理組合の財務を悪化させます。
3 空き住戸の増加
相続人が利用せず放置することで、空き住戸が増加します。
防犯・防災上のリスクも高まります。
税制は解決策になり得るか
マンション長寿命化促進税制などの税制は、修繕工事の実施を後押しする仕組みです。
しかし、相続未登記問題は「資金不足」ではなく、「所有関係の不明確化」が本質です。
固定資産税の減額は、相続登記を促す直接的な効果を持ちません。
つまり、築古マンション問題のうち、
・資金面には税制
・所有関係には民法・不動産登記法
と、政策手段が分断されているのが現状です。
相続登記義務化の効果と限界
相続登記は義務化されましたが、
・過去案件の解消
・複数世代にわたる未登記
・共有持分の細分化
といった問題は残ります。
築古マンションでは、すでに相続が二次・三次に及んでいるケースもあり、権利関係が複雑化しています。
義務化は将来予防策としては重要ですが、既存ストックへの即効性は限定的です。
管理組合ガバナンスへの影響
相続未登記の増加は、管理組合の意思決定機能を低下させます。
・総会の成立要件を満たせない
・特別決議が成立しない
・理事のなり手が不足する
結果として、必要な修繕や改修が先送りされます。
これは建物劣化を加速させる要因となります。
都市政策としての波及
築古マンションが管理不能に陥ると、
・空き家化
・防災リスク増大
・周辺地価への影響
といった都市政策上の問題に発展します。
相続未登記は、個別の家庭問題にとどまらず、都市インフラ維持の問題へと波及します。
制度的再設計の方向性
築古マンションと相続未登記問題に対応するためには、
・管理組合による一定の権限強化
・滞納者への対応手続の迅速化
・共有持分整理の簡素化
・相続放棄や限定承認との調整
など、総合的な制度設計が求められます。
税制単独では対応できない領域に入っています。
結論
築古マンション問題は、建物老朽化だけでなく、所有者高齢化と相続未登記の増加という法的問題を内包しています。
税制は修繕を後押しする手段として一定の役割を果たしますが、所有関係の混乱を直接解消することはできません。
今後は、税制・登記制度・区分所有法・都市政策を横断する再設計が必要です。
築古マンション問題は、資金の問題から、所有の問題へと局面を移しつつあります。
その変化を正確に捉えることが、次の政策議論の出発点になるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年2月16日
国土交通省 住宅税制のEBPMに関する有識者会議資料
法務省 相続登記義務化関連資料
国土交通省 マンション管理適正化関連資料
