相続した実家を売却するとき、一定の要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できる、いわゆる「空き家特例」があります。
一方で、相続土地国庫帰属制度は「売れない土地」を国に引き取ってもらう制度です。
両制度は、どちらも人口減少社会に対応する仕組みですが、方向性は異なります。
本稿では、空き家特例と国庫帰属制度の関係を整理し、実務上の設計ポイントを検討します。
空き家特例の基本構造
空き家特例は、被相続人が居住していた家屋およびその敷地を相続し、一定期間内に売却した場合に、譲渡所得から3,000万円を控除できる制度です。
主な要件は次のとおりです。
- 被相続人が一人で居住していたこと
- 昭和56年5月31日以前建築
- 耐震改修または除却後の売却
- 相続開始から3年以内の譲渡
この制度は、「放置空き家の発生防止」を目的としています。
国庫帰属制度との根本的な違い
両制度の違いは明確です。
| 空き家特例 | 国庫帰属制度 |
|---|---|
| 売却前提 | 売却困難前提 |
| 市場での流通を促す | 市場で流通しない土地の処理 |
| 譲渡所得の軽減 | 管理責任の終了 |
空き家特例は“市場に戻す制度”。
国庫帰属制度は“市場から外す制度”。
思想が異なります。
両制度は両立するか
実務上、重要なのは順番です。
① 売却できる可能性があるなら、まず空き家特例を検討
② 売却不能であれば、国庫帰属を検討
国庫帰属した場合、当然ながら譲渡は発生しないため、空き家特例の適用はありません。
また、空き家特例は「譲渡」が前提であり、「価値があること」が暗黙の前提となっています。
つまり、完全な負動産には適用の余地がありません。
実務上の判断ポイント
重要なのは、相続開始後の初期判断です。
1. 需要調査を行う
地元不動産業者への査定依頼は必須です。
2. 解体費用との比較
更地にしても売れる可能性があるか。
3. 固定資産税の負担試算
売却できない場合の長期負担を数値化。
4. 共有状態の確認
共有は流動性を著しく低下させます。
政策の矛盾はないか
ここで浮かぶのは制度の整合性です。
国は一方で、
- 空き家は市場に戻せ
- 使えない土地は国に渡せ
と言っています。
これは矛盾ではなく、「選別」です。
人口減少社会では、すべての土地を維持することはできません。
市場で再活用できる土地と、そうでない土地を分ける政策に移行しているのです。
今後想定される論点
将来的に、次のような議論が出てくる可能性があります。
- 空き家特例の対象範囲縮小
- 帰属制度の負担金引上げ
- 地域別の適用差
- 管理義務の強化
制度は固定ではありません。人口動態と財政状況に応じて変化します。
結論
空き家特例と国庫帰属制度は競合関係ではありません。
それぞれ、
- 活かせる土地を市場へ戻す
- 活かせない土地を整理する
という役割分担です。
重要なのは、相続発生後に迷わないことです。
売却可能性の見極めと、早期の意思決定が鍵になります。
人口減少社会では、「持つ」よりも「整理する」が中心になります。
次回は、土地所有の再設計という制度論的視点から整理します。
参考
・日本経済新聞「国の『負動産』処分を促進」2026年2月28日朝刊
・国税庁 空き家に係る譲渡所得の特例資料
・法務省 相続土地国庫帰属制度資料
