相続税申告の電子申告 e-Taxで進めるオンライン手続きの実務(オンライン相続手続きシリーズ 第3回)

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相続税の申告は、相続発生から10カ月以内に税務署へ提出する必要があります。
以前は紙の申告書を窓口に提出する方法が一般的でしたが、e-Taxを使った電子申告の利用が広がりつつあります。電子申告には、来署不要・添付書類の電子化などの利点がありますが、相続税特有の複雑な添付資料、PDFの扱い、電子署名の準備など、事前に理解しておくべきポイントも少なくありません。
本稿では、相続税申告をオンラインで進めるための手順、メリットと注意点、実務で迷いやすい場面を整理し、電子申告の全体像を解説します。

1 相続税申告の電子化の背景

近年、個人の所得税や法人税の電子申告が一般化し、相続税にも同様のデジタル化の波が広がっています。
制度面では、

  • マイナンバーカードの普及
  • 添付書類のPDF化の認容
  • e-Taxソフト(WEB版・ダウンロード版)の整備
    などが後押しとなっています。

相続税申告は手続き量が多く、被相続人・相続人の情報管理や財産評価書の作成など、紙での提出には多大な労力が伴います。電子申告は申告作業と情報管理を効率化する有力な手段といえます。


2 e-Taxを使った相続税申告の流れ

相続税の電子申告は、「事前準備 → 申告書作成 → 添付書類のPDF化 → 送信 → 受領通知の確認」という手順で進みます。

(1)事前準備

電子申告には以下の準備が必要です。

  • マイナンバーカード
  • ICカードリーダー(またはスマートフォンの署名用アプリ)
  • e-Tax利用者識別番号
  • パスワード
  • 添付書類のスキャン環境(PDF化)

相続人が複数いる場合でも、申告を行う代表者が準備を整えれば電子申告できます。

(2)申告書の作成

相続税申告は、

  • e-Taxソフト(WEB版)
  • e-Taxソフト(ダウンロード版)
    のどちらでも作成できますが、WEB版のほうが操作は簡易です。

申告書には以下の情報を入力します。

  • 被相続人の基本情報
  • 相続人の人数・続柄
  • 各財産の評価額(不動産・預金・株式・保険金など)
  • 債務控除の内容
  • 配偶者控除・小規模宅地等の特例の適用

財産評価額の計算は自動化されていないため、別途エクセルなどで計算する必要があります。

(3)添付書類のPDF化

電子申告で最も手間がかかるのが添付書類の電子化です。主な添付資料は以下のとおりです。

  • 戸籍謄本
  • 財産の資料(残高証明、不動産の登記事項証明書)
  • 生命保険の支払通知書
  • 評価資料(路線価図、倍率表など)
  • 遺産分割協議書
  • 法定相続情報一覧図(任意)

PDFは鮮明である必要があり、文字がつぶれていると補正指示が出る可能性があります。

また、小規模宅地等の特例を利用する場合は、

  • 住民票
  • 生活の本拠を証明する資料
    など追加資料が求められます。
    これらもすべてPDF化して添付します。

(4)申告データの送信

書類の添付を終えたら、申告書データをe-Taxで送信します。
送信後、税務署側で内容が取り込まれ、受付完了のメッセージが届きます。

申告期限ギリギリに送信すると、データエラーに気付かないまま期限後となるケースもあるため、余裕を持って手続きすることが重要です。

(5)受領通知・控えの取得

電子申告では、紙の控えの「収受印」がありません。
代わりに、

  • データ送信時の「受付結果」
  • 添付ファイルの「送信票」
    を保存して証跡とします。

銀行などの相続手続きで控えを求められる場合は、「受付結果」をPDF印刷して代替とします。


3 電子申告のメリット

相続税申告をオンライン化する最大の利点は、時間と手間の削減にあります。

● 税務署へ行く必要がない

多くの添付書類を持参して提出する必要がなく、自宅から完結します。

● 添付書類の管理が楽になる

紙で残す場合と比べ、電子データで整理すると保管が容易です。

● 修正申告・更正の請求もオンラインで可能

申告後の修正にも対応できるため、追加資料が見つかった場合にも柔軟です。

● 税理士との共同作業がしやすい

相続資料をクラウドで共有し、税理士が代理送信する形も一般的です。


4 電子申告の注意点

便利な半面、電子申告特有の注意点もあります。

● 財産評価は別作業が必須

e-Taxでは評価額を自動計算しないため、

  • 路線価法
  • 倍率方式
    などの計算を自分で行う必要があります。
    評価間違いは申告全体に影響するため慎重な作業が求められます。

● PDF化の品質が問われる

スキャンが不鮮明な場合、税務署からの問い合わせ対象になります。

● 相続税は書類量が非常に多い

相続登記と異なり、財産が多いほど資料が膨大になり、電子申告の準備が負担になることがあります。

● 特例の適用には確認資料が必須

特に小規模宅地等の特例は資料が多く、PDF化にも時間がかかります。

● 期限が延びない

電子申告を選んでも期限延長にはなりません。期限後になれば加算税・延滞税が課されます。


5 紙申告との比較

以下に、電子申告と紙申告の特徴を整理します。

項目電子申告(e-Tax)紙申告
税務署への来署不要必要
添付書類PDF化して提出原本またはコピーを提出
控え電子データ収受印つき紙の控え
作業のしやすさデジタル管理向き書類が大量になりがち
修正申告電子で可能書面で再提出

オンラインに慣れている家庭では電子申告のメリットが大きい一方、書類作成が苦手であれば紙のほうが安心という場合もあります。


結論

相続税申告の電子申告は、手続きの効率化を進める重要な選択肢です。
書類量の多さや評価計算の難しさなど、オンラインであっても相続税の本質的な複雑さは変わりませんが、資料整理、申告控えの保管、税理士との連携といった面での利便性は非常に大きいといえます。
電子申告を活用することで、相続人の負担を軽減しつつ、期限内に申告を完了しやすくなります。制度の特性を理解したうえで、紙とオンラインを比較し、自分の状況に合った方法を選ぶことが重要です。


参考

・国税庁「相続税の申告手続き」
・e-Taxポータルサイト
・マイナンバーカード総合サイト
・税理士会資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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