基準地価上昇と暮らし・資産戦略(第4回)
ここまで、2025年の基準地価上昇について、東京圏や地方都市、そして日本経済全体との関わりを見てきました。
シリーズ第4回では、いよいよ「生活者にとってどんな影響があるのか」に焦点を当てます。
地価が上がることは、一見すると「資産価値が高まってうれしいこと」のように思えます。しかし、住宅を買う人、相続を控える人、すでに不動産を持っている人、それぞれに異なる影響があります。
1. 住宅購入のハードルが上がる
都心の住宅価格高騰
東京23区の住宅地は、都心3区(千代田・中央・港)や渋谷区、新宿区で1割以上の上昇となりました。
これはそのままマンションや一戸建ての価格に反映されます。
- 新築マンション:都心では1億円を超える物件が珍しくなくなった
- 中古マンション:築年数が経っても価格が下がりにくく、むしろ上昇傾向
結果として、若い世代や子育て世帯には「買えない」「買ってもローンが重すぎる」という現実が突きつけられています。
郊外移住と二極化
一方で、郊外や地方都市では価格上昇が比較的穏やかであり、移住やリモートワークを活用して「無理に都心にこだわらない選択」をする人も増えています。
ただし、通勤や教育環境の問題もあり、住宅購入は地域ごとのバランス感覚が求められる時代になっています。
2. 家賃や生活コストへの影響
地価上昇は賃貸住宅市場にも影響を与えます。
- 新築賃貸の家賃上昇:土地取得コストが上がると、家賃に転嫁されやすい
- 商業施設やオフィスの賃料:テナント料が上がれば、結果的に商品価格やサービス料金が高くなる
つまり、住宅を購入しない人にとっても、生活コストの上昇という形で負担が増す可能性があります。
3. 相続税への影響
地価が上がると「路線価」や「固定資産税評価額」も上昇し、相続税の課税額に直結します。
具体例
例えば、都内に土地を200㎡持っている家庭を想定すると、
- 路線価が1㎡あたり50万円から55万円に上がった場合
- 評価額は 200㎡ × 5万円 = 1,000万円 増加
この増加分に対して相続税率がかかるため、実際の税負担は数百万円単位で変わることも珍しくありません。
「都市部の土地持ち高齢者」の課題
地価上昇は、特に都市部で不動産を相続する予定がある家庭にとって大きな問題です。
「相続税を現金で払えないために不動産を売却せざるを得ない」というケースも増えやすくなります。
4. 固定資産税への影響
固定資産税も地価上昇の影響を受けます。
- 評価額の上昇 → 税額アップ
- 商業地や住宅地の急騰エリアでは、年間数万円〜数十万円単位で増えることも
ただし、急激な負担増を避けるために「負担調整措置」が設けられており、税額は一定の上限を超えて上がらないようにされています。
それでもじわじわと増える税負担は、年金暮らしの家庭などにとって大きな重荷となるでしょう。
5. 「資産が増える」の裏にある現実
地価が上がれば、「持っている土地の資産価値が増える」というメリットは確かにあります。
しかし、それを実感できるのは「売却したとき」か「賃貸収入を得られるとき」です。
一方で、
- 税負担増
- 生活コスト増
- 住宅購入難の深刻化
といったデメリットが現実的にのしかかります。
「資産価値が増えてうれしい」という単純な話ではなく、メリットとデメリットをどう天秤にかけるかが重要になります。
6. 生活者に求められる視点
ここまでの内容を整理すると、地価上昇に直面する私たちが意識すべきことは次の3つです。
- 住宅購入のタイミングを見極める
無理に今買うのではなく、金利・地価の動向を踏まえて長期的に判断する。 - 相続や贈与の準備を早めにする
地価が高止まりする前に生前贈与を検討する家庭も増えています。 - 生活コストの上昇を見越した家計設計を行う
家賃や固定資産税の負担が将来的に増える前提でシミュレーションしておく。
まとめ
2025年の基準地価上昇は、東京圏だけでなく地方都市にも及びました。その影響は、住宅購入の難しさ、家賃の上昇、相続税や固定資産税の増加といった形で、私たちの暮らしに直結しています。
「土地価格が上がる=良いこと」とは限りません。
むしろ、その裏にある負担やリスクを冷静に受け止めることが大切です。
次回(第5回)は、**「今後の展望と資産形成戦略」**として、地価上昇とどう付き合うか、将来に向けた選択肢を考えていきます。
📖 参考
日本経済新聞「基準地価4年連続上昇 東京けん引、海外マネー流入」
2025年9月17日付・総合2面
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
