最高値圏で推移する日本株市場において、改めて注目を集めているのがM&A(合併・買収)です。キャッシュリッチな企業が成長投資としてM&Aを加速させるとの期待が、相場の一因になっています。
しかし一方で、海外大型買収が減損損失につながる事例も後を絶ちません。M&Aは株価を押し上げる「物語」なのか、それとも企業経営の実力が問われる「試金石」なのか。本稿では、日本株とM&A期待の構造を整理します。
なぜ今、M&Aが株価材料になるのか
背景にあるのは、日本企業の財務体質です。
・自己資本が厚い
・現預金が積み上がっている
・営業利益率は改善している
一方で、ROEは過去のピークを超えられていません。つまり、「稼ぐ力」は向上しているが、資本効率はなお改善余地があるという状況です。
ここに、金融庁によるコーポレートガバナンス・コード改訂の動きが重なります。企業に対し、積み上がった現預金の有効活用を求める方向性が明確になりつつあります。
成長投資か、株主還元か。それとも両立か。
この問いに対する一つの答えが、M&Aなのです。
減損リスクと成功物語の分岐点
過去を振り返ると、日本企業の海外M&Aには明暗があります。
たとえば、
- セガサミーホールディングス
- ニコン
- 電通グループ
これらの企業では、買収後の減損計上が業績を大きく押し下げました。のれんの過大計上、シナジー過信、統合失敗など、典型的なリスクが顕在化しています。
M&Aは発表時に株価を押し上げやすい一方、統合プロセスがうまく進まなければ、数年後に減損という形で逆流します。
市場が期待するのは「買収そのもの」ではなく、「統合後の実効性」です。
海外よりも“国内再編”に視線が向く理由
興味深いのは、海外投資家が足元では国内再編に注目している点です。
日本は深刻な人手不足社会に入っています。単純な規模拡大ではなく、「労働力の再配置」が重要テーマになっています。
警備業界では
- セコム
- ALSOK
といった2強体制が象徴的です。仮に再編が進めば、単なるコスト削減ではなく、人材融通や配置効率化という構造改革の側面が強くなります。
ドラッグストア業界でも
- ツルハホールディングス
- ウエルシアホールディングス
の統合など、人口減少を前提にしたスケール戦略が進みます。
ここでのM&Aは、「市場拡大」ではなく「市場縮小への適応」です。
この違いは極めて重要です。
アクティビストと資本コスト経営
再編期待の背景には、アクティビストの存在もあります。
フランス系ファンドの
- ロンシャンSICAV
が資本コストを意識した経営を求めた事例は象徴的です。
いまの日本市場は、「PBR1倍割れ問題」「資本効率改善圧力」「現金滞留批判」が同時進行しています。M&Aはその出口の一つとして語られています。
M&Aは本当にROEを改善するのか
本質的な問いはここにあります。
・買収価格は妥当か
・シナジーは実現可能か
・統合コストを織り込んでいるか
・資本コストを上回る投資か
これらに明確な答えがなければ、M&Aは単なる規模拡大に終わります。
日本企業は「内部留保を使う」段階から、「資本を回転させる」段階へ移行できるかどうかが問われています。
株式市場の期待はどこに向かうのか
現在のM&A期待は、三つの構造に支えられています。
- ガバナンス改革による資本活用圧力
- 人手不足社会における再編合理性
- アクティビストによる外圧
ただし、選別はこれからです。
減損を出す企業と、統合を成功させる企業の差は広がるでしょう。
結論
M&Aは日本株の追い風にもなり得ますが、万能薬ではありません。
重要なのは「何を買うか」ではなく、「どう統合し、どう資本効率を高めるか」です。
市場はすでに、発表時のストーリーよりも、その後の実行力を見始めています。
再編は株高材料というより、経営の本質が問われる局面に入ったと言えるのではないでしょうか。
参考
・日本経済新聞 2026年2月28日朝刊「スクランブル 日本株、M&Aに期待論」
・金融庁 コーポレートガバナンス・コード改訂関連資料
・各社決算説明資料(セガサミーHD、ニコン、電通グループ等)

