クロスボーダーIPOや海外展開を視野に入れる企業にとって、事業承継は単なる世代交代ではありません。その先にM&Aを見据えるかどうかで、承継設計の意味は大きく変わります。
承継後に第三者へ売却するのか。海外企業との統合を目指すのか。あるいは段階的に資本を開放するのか。
本稿では、承継後M&Aを前提としたクロスボーダー設計の考え方を整理します。
承継とM&Aは連続した資本イベント
従来の承継は「家族内承継」や「従業員承継」が中心でした。しかし現在は、承継を一度経由し、その後に戦略的M&Aを行う二段階設計が増えています。
承継は「支配権の移転」、M&Aは「支配権の再編」です。
両者は独立した出来事ではなく、連続した資本イベントとして設計する必要があります。
なぜ承継後にM&Aを行うのか
1.企業価値の最大化
創業者が直接売却するよりも、後継者体制を整え、ガバナンスを明確化した後に売却した方が企業価値が高まるケースがあります。
特にクロスボーダー案件では、統治体制の透明性が評価に直結します。
2.税務・感情面の整理
承継前に売却を行うと、創業者に多額の譲渡益課税が生じます。一方、承継を経てから売却すれば、課税主体や税率、相続との関係が変わります。
また、創業者にとっても「一度バトンを渡してから次の選択をする」方が心理的負担が軽い場合があります。
クロスボーダー設計で考慮すべき論点
1.持株会社体制の構築
日本に持株会社を設立し、海外子会社をぶら下げる体制は、将来の株式譲渡を容易にします。
株式売却による出口か、事業譲渡による出口かで税務上の影響は大きく異なります。クロスボーダーでは、どの国で課税されるかが重要です。
2.租税条約の活用
株式譲渡益に対する課税権は、租税条約により定められます。どの国に持株会社を置くかによって、将来の譲渡益課税の帰属先が変わります。
条約ネットワークの広さは、クロスボーダー設計の重要な要素です。
3.事業承継税制との整合性
承継税制を適用している場合、一定期間の株式保有要件があります。この期間内にM&Aを行えば、納税猶予が取り消される可能性があります。
承継とM&Aの時間軸をどう設計するかが、最大の実務論点になります。
PEファンド関与型との違い
承継後M&Aでは、PEファンドが中間段階で関与するケースもあります。
ファンドが一時的に株式を取得し、数年後に再売却する設計です。この場合、株式評価、優先株式の設計、配当政策などが複雑になります。
クロスボーダー案件では、ファンドの所在国による課税影響も無視できません。
出口を先に描くという発想
承継後M&Aを前提にする場合、最初に考えるべきは「誰が最終的に所有するのか」です。
1.戦略的買収者か
2.海外同業か
3.PEファンドか
4.上場市場か
出口の形によって、持株構造、議決権設計、配当政策、役員構成は変わります。
承継はゴールではなく、通過点です。
M&Aもゴールではなく、資本再編の一局面です。
結論
承継後M&Aを前提とするクロスボーダー設計は、時間軸と課税権の設計問題です。
承継税制の適用可否、保有期間要件、租税条約、持株会社所在地、PEリスク。これらを横断的に整理しなければなりません。
出口を後から考えるのではなく、最初に描く。
そのうえで承継とM&Aを組み込む設計こそが、国境をまたぐ資本戦略の核心です。
参考
日本経済新聞 2026年2月26日朝刊
日本上場に関心示す新興
中小企業庁
事業承継税制に関する公表資料
財務省
租税条約関係資料
