成年後見制度を理解するうえで、近年最も重要なキーワードが意思決定支援です。これは単なる制度の運用方法ではなく、制度の前提となる考え方そのものに関わる概念です。
従来の成年後見制度は、本人に代わって第三者が意思決定を行う仕組みを中心としていました。しかし現在は、本人の意思を尊重し、その意思決定を支えるという方向へと大きく転換しています。
本稿では、この意思決定支援という考え方の背景と、日本における課題を整理します。
代理意思決定から意思決定支援へ
従来の制度は、判断能力が不十分な人に対して、第三者が代わりに意思決定を行うことを前提としていました。これは代理意思決定と呼ばれる考え方です。
代理意思決定は、本人を保護するという観点では合理的な側面を持っていますが、その一方で、本人の意思や価値観が十分に反映されないという問題を抱えています。
これに対して、現在の国際的な潮流は、意思決定支援へと移行しています。これは、本人の意思を中心に据え、その意思を実現するために必要な支援を行うという考え方です。
つまり、「代わりに決める」のではなく、「本人が決めることを支える」ことが重視されるようになっています。
国際的な考え方の変化
この転換の背景には、障害者権利条約における考え方の変化があります。この条約では、障害の有無にかかわらず、すべての人が平等に法的能力を有することが原則とされています。
従来は、判断能力が不十分な場合には法的能力を制限することが当然とされてきました。しかし現在は、そのような一律の制限ではなく、必要な支援を提供することで本人の意思決定を可能にするという考え方が採用されています。
この変化は、制度の技術的な問題ではなく、人間の尊厳や権利の捉え方そのものに関わるものです。
日本の制度との関係
日本の成年後見制度も、この国際的な流れを受けて見直しが進められてきました。
制度上は、本人の意思の尊重や身上保護の重視が掲げられており、意思決定支援の考え方も取り入れられています。しかし実際の運用を見ると、必ずしもこの理念が十分に実現されているとは言えません。
特に、後見類型においては、包括的な権限付与による代理意思決定が中心となりやすく、本人の意思をどのように反映するかという点が課題として残っています。
「最小限の介入」という考え方
意思決定支援において重要なのは、「必要最小限の介入」という考え方です。
これは、本人の能力を前提としつつ、必要な範囲に限って支援を行うという原則です。過剰な介入は本人の自立を損ない、不十分な支援はリスクを高めるため、そのバランスが重要となります。
制度としてはこの原則が示されていますが、実務では安全性を優先するあまり、結果として過剰な介入が行われるケースも見られます。
意思決定支援の難しさ
意思決定支援は理念としては明確ですが、実務においては多くの課題を伴います。
まず、本人の意思をどのように把握するかという問題があります。判断能力が低下している場合、その意思を正確に読み取ることは容易ではありません。
また、本人の意思と客観的な利益が一致しない場合に、どのように対応すべきかという問題もあります。意思を尊重することと、保護を図ることの間には常に緊張関係が存在します。
このように、意思決定支援は単純なルールで運用できるものではなく、個別具体的な判断が求められる領域です。
制度の転換期にある日本
現在の日本の成年後見制度は、代理意思決定から意思決定支援への転換期にあります。
制度の理念は変化しつつあるものの、その運用や実務はまだ過渡的な段階にあります。このため、制度の方向性と現場の実態との間にギャップが生じています。
今後は、このギャップをどのように埋めていくかが重要な課題となります。
税理士にとっての意味
意思決定支援という考え方は、税理士の業務にも大きな影響を与えます。
従来のように、専門家が最適解を提示するだけではなく、本人の意思や価値観を踏まえたうえで判断を支える役割が求められるようになります。
特に、資産の管理や承継に関する意思決定においては、この視点が不可欠となります。
結論
意思決定支援は、成年後見制度の中核となる考え方であり、制度の方向性を大きく変えるものです。
しかし、その実現には制度設計だけでなく、実務や専門職の意識の変化が不可欠です。
税理士としても、この変化を単なる制度改正として捉えるのではなく、自らの役割の変化として理解することが求められます。
次回は、成年後見制度の今後の方向性について整理し、制度がどこへ向かおうとしているのかを検討します。
参考
東京税理士協同組合教育情報事業 配布資料 全国統一研修会 成年後見制度に関する資料
最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 令和7年3月