成年後見制度は、判断能力が不十分な人を守るための仕組みです。しかし現実には、「後見人によるトラブル」という問題が繰り返し指摘されています。
具体的には、
- 財産の使い込み
- 家族との対立
- 本人の意思との乖離
といった事例です。
こうした問題を見ると、「制度自体に欠陥があるのではないか」と感じるかもしれません。しかし、実務的に見ると、多くのトラブルは制度の運用ミスではなく、制度の構造そのものから生じています。
本稿では、後見人トラブルがなぜ起きるのかを構造的に整理します。
トラブルの本質は「権限の集中」にある
成年後見制度の特徴は、後見人に強い権限が与えられる点にあります。
具体的には、
- 預貯金の管理
- 不動産の処分
- 契約行為の代理
といった広範な権限が付与されます。
この構造は、本人を保護するためには不可欠ですが、一方で
権限が一人に集中する
というリスクを内包しています。
この「権限の集中」が、すべてのトラブルの出発点になります。
リスク① 財産管理と横領の問題
最も典型的なトラブルが、財産の不正利用です。
後見人は、日常的に本人の財産にアクセスできる立場にあります。そのため、
- 私的流用
- 不透明な支出
- 管理のずさんさ
といった問題が発生する余地があります。
家庭裁判所による監督はあるものの、
- 年1回程度の報告
- 書面中心のチェック
にとどまるケースが多く、リアルタイムでの監視は難しいのが実態です。
つまり、
強い権限に対して監督が追いつきにくい
という構造的なギャップが存在します。
リスク② 家族との対立が起きる理由
後見人トラブルのもう一つの典型が、家族との対立です。
これは制度の性質上、避けにくい問題です。
後見人は、本人の利益を最優先に行動する義務があります。一方、家族は必ずしも同じ視点で意思決定をしているとは限りません。
例えば、
- 生活費の水準をどうするか
- 財産をどこまで使うか
- 不動産を売却するか
といった判断で、意見が対立することがあります。
ここで重要なのは、
後見人は家族ではなく、あくまで「法的代理人」である
という点です。
この役割の違いが、感情的な対立を生みやすくします。
リスク③ 本人の意思とのズレ
成年後見制度の最大のジレンマは、「本人の意思」と「保護」のバランスです。
後見人は、
- 財産を守る
- 不利益な契約を防ぐ
という役割を担います。
しかしその結果として、
- 本人が望む支出が認められない
- 生活の自由が制限される
といった事態が生じることがあります。
つまり、
安全性を優先すると、自由が制限される
という構造的なトレードオフが存在します。
このズレは、制度の性質上、完全には解消できません。
リスク④ 専門職後見人と「距離の問題」
近年、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任されるケースが増えています。
専門職の関与は、
- 不正防止
- 法的判断の適正化
といった点でメリットがあります。
一方で、
- 本人との関係が希薄
- 生活実態を十分に把握できない
といった問題も指摘されています。
結果として、
形式的には適正でも、本人の実感とズレる支援
が生じることがあります。
これは「専門性」と「生活密着性」のバランスの問題です。
リスクは「制度の失敗」ではない
ここまで見てきたように、後見人トラブルの多くは、
- 権限の集中
- 利害関係の対立
- 自由と保護のトレードオフ
といった制度の構造から生じています。
つまり、
制度が失敗しているのではなく、制度の性質がそのまま現れている
という理解が重要です。
この前提を踏まえないと、「制度を使えば安心」という誤解につながります。
トラブルを防ぐための実務的視点
では、こうしたリスクにどう向き合うべきでしょうか。
実務上は、以下の視点が重要になります。
事前設計を重視する
- 任意後見で後見人を選んでおく
- 支援内容を具体的に定める
権限を必要最小限にする
- 全面的な管理ではなく限定利用を検討する
関係者間の認識を揃える
- 家族と後見人の役割を明確にする
制度に過度な期待をしない
- すべての問題を解決する制度ではないと理解する
これらを踏まえることで、リスクは一定程度コントロール可能になります。
結論
成年後見制度におけるトラブルは、例外的な問題ではなく、制度の構造に内在するリスクです。
- 権限が集中する
- 利害が対立する
- 自由と保護が衝突する
これらは避けることが難しい要素です。
したがって重要なのは、
制度のメリットだけでなく、リスクも前提として理解すること
です。
成年後見は万能の制度ではありません。あくまで「必要な場面で使うべき手段」であり、その使い方が結果を大きく左右します。
制度を正しく理解し、適切に設計することが、トラブルを最小化する唯一の方法といえるでしょう。
参考
・日本経済新聞(2026年4月4日朝刊)
・法務省 成年後見制度に関する資料