在職老齢年金と「標準報酬月額」の実務的な落とし穴

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高齢期において働きながら年金を受給する場合、在職老齢年金制度の仕組みだけでなく、「標準報酬月額」の考え方を正確に理解しておく必要があります。実務では、この標準報酬月額の認識不足が、想定外の年金減額や社会保険料負担増につながることがあります。本稿では、在職老齢年金と標準報酬月額の関係について、実務上の留意点を整理します。

1 在職老齢年金の判定に用いられる報酬とは何か

在職老齢年金の支給停止額は、「総報酬月額相当額」と「基本月額」を用いて計算されます。

ここでいう総報酬月額相当額とは、
・標準報酬月額
・その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で除した額

を合算したものです。

つまり、実際の手取り給与ではなく、社会保険上の「標準報酬」に基づいて判定されます。この点が最初の落とし穴です。

2 標準報酬月額は「実際の給与」とは一致しない

標準報酬月額は、毎月の報酬を一定の等級に区分した金額です。例えば、実際の給与が42万円であっても、標準報酬月額は41万円や44万円といった等級に当てはめられます。

そのため、わずかな給与変動であっても、等級が変わると標準報酬月額が大きく動くことがあります。

さらに注意が必要なのは、次の点です。

・通勤手当などの各種手当も原則として報酬に含まれる
・賞与は標準賞与額として別途計算対象となる
・役員報酬も対象となる

「基本給だけ」で判断していると、在職老齢年金の基準額を超えてしまうケースがあります。

3 賞与の影響を見落としやすい

実務で見落とされやすいのが賞与です。在職老齢年金の判定では、直近1年間の標準賞与額を12で割った金額を月額換算して加算します。

例えば、年間賞与が240万円であれば、月額換算20万円が上乗せされます。

給与45万円のつもりでも、

45万円(標準報酬月額)
+20万円(賞与換算)
=65万円

となり、基準額65万円を超える可能性があります。

月々の給与だけを見て「大丈夫」と判断することは危険です。

4 随時改定と定時決定のタイミング

標準報酬月額は、毎年の定時決定(算定基礎届)や、一定の変動があった場合の随時改定(月額変更届)によって見直されます。

例えば、65歳到達後に報酬体系が変わった場合でも、標準報酬月額の改定時期によっては、旧等級がしばらく適用されることがあります。

逆に、残業増加などで3か月平均が上がれば、随時改定により等級が上がり、年金支給停止額が増えることもあります。

報酬変動と改定タイミングを連動して把握していないと、想定外の減額が発生します。

5 70歳以降との違い

70歳以降は厚生年金の被保険者ではなくなりますが、在職老齢年金制度自体は適用されます。この場合も、報酬額相当の考え方が用いられます。

ただし、厚生年金保険料の負担は生じません。つまり、

・69歳までは保険料負担あり
・70歳以降は保険料負担なし

という差があります。

同じ給与水準でも、社会保険料負担の有無によって手取りは大きく異なります。年齢到達前後での働き方設計は、実務上の重要論点です。

6 企業側の実務上の注意点

企業の人事・経理担当者にとっても、在職老齢年金は無関係ではありません。

・役員報酬改定時の影響確認
・高年齢再雇用時の賃金設計
・賞与支給時の想定シミュレーション

これらを事前に整理しておかないと、本人からの問い合わせやトラブルにつながります。

特に、基準額引き上げにより「減額されなくなった」と誤解されがちな局面では、標準報酬月額の理解が不可欠です。

結論

在職老齢年金制度は、単純な「給与+年金」の足し算ではありません。その判定の基礎となるのは標準報酬月額であり、さらに賞与や改定タイミングが複雑に絡みます。

制度改正により基準額が引き上げられても、標準報酬月額の構造を理解していなければ、想定外の支給停止や負担増が生じます。

高齢期の就労設計においては、
年金制度、社会保険料、税制の三者を同時に検討する視点が不可欠です。

在職老齢年金は「制度の理解」がそのまま手取りに直結する分野といえます。

参考

税のしるべ 2026年2月23日
「4月から在職老齢年金制度を見直し、給与のみの場合との控除額の差の問題が顕在化」

日本年金機構 在職老齢年金制度の概要資料
厚生労働省 標準報酬月額および標準賞与額に関する資料

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