国が「負動産」の処分を促進する方針を示しました。
空き家特例と国庫帰属制度の整理を通じて見えてくるのは、個別の税制や手続きの問題ではありません。
本質は、「土地所有の前提が変わりつつある」という点にあります。
高度成長期の制度設計は、人口増加・地価上昇・都市拡大を前提としていました。しかし現在は、人口減少・需要縮小・財政制約の時代です。
本稿では、土地所有の再設計という視点から制度の方向性を考察します。
戦後モデルの前提
戦後の土地制度は、次の前提に支えられていました。
- 土地は希少資源である
- 地価は中長期的に上昇する
- 所有は安定的な資産形成手段である
- 相続は資産承継である
この前提のもと、固定資産税・相続税・譲渡課税の体系が組み立てられました。
しかし人口減少社会では、この前提が崩れています。
負動産の増加は構造問題
負動産の増加は一時的現象ではありません。
- 地方の人口減少
- 高齢化による管理能力低下
- 都市集中の加速
- 不動産市場の二極化
これらが重なり、「資産にならない土地」が増えています。
制度が想定していなかった領域が拡大しているのです。
再設計の方向性①:所有から利用へ
今後重要になるのは、「所有」よりも「利用」です。
具体的には、
- 定期借地の活用拡大
- 公共的利用への転換
- 地域単位での集約管理
- 管理法人化モデル
といった仕組みが考えられます。
所有権を絶対的に保持するモデルから、利用権中心の柔軟な構造への転換が議論される可能性があります。
再設計の方向性②:保有コストの可視化
土地は保有しているだけではコストが見えにくい資産です。
しかし実際には、
- 固定資産税
- 維持管理費
- 相続時の分割困難
- 将来の処分費用
が発生します。
今後は、保有コストを政策的に可視化する方向に進む可能性があります。
例えば、
- 管理義務の厳格化
- 放置土地への課税強化
- 未利用地への追加負担
などが検討対象となり得ます。
再設計の方向性③:選別の明確化
空き家特例と国庫帰属制度の併存は、「選別」の始まりです。
- 再生可能な土地は市場へ
- 再生困難な土地は整理へ
この二層構造が制度化されています。
今後は地域単位での線引きがより明確になる可能性があります。
都市部と過疎地域では、制度運用が実質的に異なる社会になるかもしれません。
税務実務への示唆
実務上の視点として重要なのは、次の点です。
1. 不動産の棚卸しの早期化
2. 相続前の処分判断
3. 法人化による管理集約
4. 共有回避の徹底
5. 将来の帰属制度活用を前提とした設計
土地は「持ち続けるもの」ではなく、「設計するもの」へと変わりつつあります。
国家財政との接点
国が負動産を抱えることは、管理コストの増加を意味します。
人口減少社会では、行政も無限に土地を保有することはできません。
将来的には、
- 帰属制度の厳格化
- 負担金の見直し
- 受入基準の強化
などの方向に進む可能性があります。
制度は固定ではありません。財政制約が強まれば、条件は変わります。
結論
国の負動産処分促進は、制度転換の序章です。
土地は永続的に価値を持つという前提は崩れています。
所有の責任とコストが、より明確に問われる社会に移行しています。
これからの相続設計では、
「何を残すか」ではなく、
「何を整理するか」が中心課題になります。
土地所有は再設計の時代に入りました。
制度の変化を受け身で見るのではなく、先回りして設計することが求められます。
参考
・日本経済新聞「国の『負動産』処分を促進」2026年2月28日朝刊
・法務省 相続土地国庫帰属制度資料
・国税庁 空き家に係る譲渡所得の特例資料
