国の「負動産」処分促進から考える―所有の責任と制度設計の転換

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2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度により、相続人が引き継ぐ意思のない土地を国が引き取る仕組みが動き出しました。しかし制度開始から間もなく、想定以上に国の管理負担が増大しています。

2026年2月、財務省は、国が引き取ったいわゆる「負動産」について、一定条件下で随意契約による売却を可能とする方針を示しました。これは単なる手続き緩和ではなく、「所有」と「責任」のあり方を問い直す政策転換でもあります。

本稿では、制度の背景と実務上の意味、そして今後の課題を整理します。


相続土地国庫帰属制度とは何か

相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を手放したい人が、一定の審査と負担金の支払いを経て、国に帰属させることができる制度です。

背景には以下の問題があります。

  • 地方の宅地・山林の市場価値の低下
  • 相続人が遠隔地に住んでいるケースの増加
  • 管理不能土地の増加
  • 所有者不明土地問題の深刻化

従来は「相続放棄」しか実質的な手段がありませんでしたが、それでは他の相続財産も放棄する必要があり、現実的ではありませんでした。

この制度は「不要な土地だけを手放せる」点で画期的でした。


なぜ“負動産”が増えているのか

国が引き取った土地の多くは、次のような特徴を持っています。

  • 市場価値が極めて低い
  • インフラ未整備
  • 再建築不可
  • 農地・山林で需要が限定的

いわば「売れない」「貸せない」「使えない」土地です。

こうした土地は管理コストだけが発生します。国が保有し続ければ、固定資産管理・草刈り・境界確認などの行政コストが膨らみます。

制度は“所有者不明化”を防ぐ目的でしたが、今度は“国有負動産”が増えるという新たな課題が生じています。


随意契約解禁の意味

原則として国有地の処分は一般競争入札です。しかし、価値の低い土地については入札が成立しないケースが続いています。

今回の方針では、

  • 予定価格100万円以下
  • 隣接地所有者への売却

という条件で随意契約を可能とします。

これは実務的には合理的です。特に隣接地所有者にとっては、

  • 駐車場拡張
  • 家屋の増築
  • 農地の集約

など活用余地があるため、流動性が高まります。

行政の管理負担軽減という観点では妥当な対応と言えます。


制度の本質的課題―価格の問題ではない

しかし、本質的な問題は価格ではありません。

そもそも市場が成立しない土地が大量に存在していること自体が、人口減少社会の構造問題を示しています。

今後は次の視点が必要です。

1. 土地利用の集約化

個別所有を前提とした制度から、地域単位での土地再編へ。

2. 所有権の柔軟化

「永久所有」から「期限付き利用」へという発想転換。

3. 地域自治との連動

自治体が主体となる再編モデルの検討。


税務実務への影響

税理士・FP実務においても、以下の論点が重要になります。

  • 相続開始前の不動産棚卸し
  • 収益不動産と非収益不動産の分離管理
  • 法人活用の是非
  • 共有状態の整理
  • 将来の帰属制度利用を前提とした設計

特に高齢の土地所有者に対しては、「売れるかどうか」ではなく「管理責任をどう設計するか」という視点が必要になります。


国の負動産は“終着点”ではない

国が引き取ることは問題解決の最終形ではありません。むしろ、制度の最終安全網です。

本質的には、

  • 地域経済の縮小
  • 人口減少
  • 相続人の都市集中

という構造問題が背景にあります。

今回の随意契約解禁は対症療法です。しかし同時に、「土地は持てば資産になる」という時代の終焉を象徴する動きでもあります。


結論

国の負動産処分促進は、単なる財務行政の話ではありません。

それは、所有の意味を問い直す政策転換です。

人口減少社会においては、

  • 所有=資産
  • 土地=価値

という前提はもはや成立しません。

これからの相続設計では、「持つ」よりも「整理する」ことが中心課題になります。

制度の変化は、社会構造の変化を映しています。
今後も制度の動向を注視しつつ、実務としての備えを進める必要があります。


参考

・日本経済新聞「国の『負動産』処分を促進」2026年2月28日朝刊
・財務省 財政制度等審議会 国有財産分科会 資料

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