古いマンションはどうなるのか 建て替え・売却ルール改正の実務的意味

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築年数の古いマンションが増加する中で、建て替えや売却が進まない問題が長年指摘されてきました。
2026年4月に施行された法改正は、この停滞を打開することを目的としています。

しかし、制度が変わったからといって、すぐに問題が解決するわけではありません。
本稿では、今回の改正のポイントと、今後の実務的な見通しについて整理します。


老朽マンション増加の現実

現在、日本の分譲マンションは約713万戸存在しています。
このうち、築40年以上の物件は約148万戸に達しており、今後さらに急増する見込みです。

特に重要なのは、1981年以前の旧耐震基準のマンションが100万戸以上存在している点です。
これは単なる老朽化ではなく、安全性の問題にも直結します。

一方で、これまでに建て替えられたマンションは約2万6000戸にとどまります。
数字だけ見れば、問題がほとんど解決されていないことは明らかです。


なぜ建て替えが進まないのか

マンション建て替えが進まない理由は、大きく3つに整理できます。

合意形成の困難

従来は、区分所有者の5分の4以上の賛成が必要でした。
このハードルは非常に高く、1人でも強く反対すれば事実上進まないケースも多くありました。

費用負担の重さ

建築費の高騰により、建て替え時の自己負担は大きく増加しています。
近年では4000万円を超えるケースも珍しくありません。

居住者の高齢化

築40年以上のマンションでは、世帯主の半数以上が70歳以上とされています。
長期間にわたる建て替えプロセスや追加負担に対する心理的抵抗は大きくなります。


今回の法改正のポイント

今回の改正は、主に「合意形成の緩和」と「選択肢の拡大」にあります。

決議要件の緩和

従来の5分の4から、一定条件下では4分の3で建て替えが可能になりました。
また、所在不明の所有者については、裁判所の判断により母数から除外できます。

これにより、これまで停滞していた案件が動き出す可能性があります。

隣接地活用の制度化

隣地所有者に区分所有権を付与できる仕組みが新設されました。
これにより、敷地を拡張し、建て替え後の戸数を増やすことが可能になります。

結果として、各所有者の負担軽減につながる設計です。


売却という新たな現実的選択肢

建て替えが難しい場合、今回の改正で重要性が増すのが「建物敷地売却」です。

従来は全員同意が原則でしたが、
改正後は原則5分の4、一定条件下では4分の3の賛成で売却が可能となりました。

この制度は、特に以下のようなマンションで有効です。

  • 賃貸化が進んでいる
  • 空室が多い
  • 実際に居住している所有者が少ない

このような物件では、生活基盤の移転負担が小さいため、合意形成が比較的進みやすくなります。


それでも残る現実的な限界

今回の改正は大きな前進ではありますが、限界も明確です。

費用問題は解決していない

建築費の高騰という根本問題は制度では解決できません。
むしろ、今後さらに負担は重くなる可能性があります。

時間の問題

建て替えには通常10〜15年程度を要します。
高齢化が進む中で、この時間軸自体が大きな障壁となります。

合意形成は依然として難しい

要件が緩和されたとはいえ、4分の3という水準も決して低くはありません。
感情的対立や利害の不一致は依然として残ります。


今後の現実的な方向性

今後の老朽マンションは、大きく3つの方向に分かれると考えられます。

①建て替えが進むマンション

立地が良く、資産価値が維持されている物件は建て替えが進みます。
特に都市部ではこの傾向が強まります。

②売却にシフトするマンション

合意が取りやすい投資型マンションでは、売却が主流になります。

③長寿命化を選択するマンション

建て替えも売却も難しい場合、修繕による延命が現実的な選択となります。
ただし、この場合でも最終的な解体費用の準備は不可避です。


結論

今回の法改正は、マンション再生における「入口のハードル」を下げたものです。
しかし、「費用」「時間」「高齢化」という構造的問題は残ったままです。

今後は、すべてのマンションが再生されるのではなく、
再生できるマンションとそうでないマンションの二極化が進むと考えられます。

重要なのは、「いつか考える」ではなく、
早い段階から建て替え・売却・長寿命化のどれを選ぶのかを整理しておくことです。

マンションの問題は、建物の老朽化だけでなく、
所有者の意思決定の問題でもあります。

その意味で、今回の改正は制度変更にとどまらず、
所有者に対して意思決定を迫る転換点ともいえます。


参考

日本経済新聞(2026年4月6日夕刊)
古いマンションどうなる?法改正で建て替え・売却容易に

日本経済新聞(2026年4月6日夕刊)
行政に頼らぬ再生狙う

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