2025年の公益信託法改正により、約100年ぶりとなる公益信託制度の抜本的見直しが進められています。
これまで公益法人制度に比べて活用が限定的であった公益信託についても、今後は資産承継・社会貢献・地域支援・奨学金事業など幅広い活用が期待されています。
もっとも、制度活用を考えるうえで重要なのが「税務」です。
特に、信託期間中に誰に課税されるのか、給付を受けた側にどのような課税が行われるのかは、実務上の最大論点の一つといえます。
今回は、新しい公益信託制度における「信託期間中」と「受給時」の課税関係について整理します。
公益信託とは何か
公益信託とは、個人や法人が拠出した財産を、受託者が公益目的のために管理・運用し、その収益や財産を社会のために活用する仕組みです。
代表例としては以下があります。
- 奨学金給付
- 学術研究助成
- 災害支援
- 文化・芸術振興
- 地域福祉支援
- 環境保全活動
従来は制度が複雑で利用件数も限定的でしたが、今回の改正では制度の使いやすさ向上が大きなテーマとなっています。
信託期間中の課税関係
所得税は引き続き非課税
公益信託の信託財産から生じる所得については、従来どおり所得税は非課税です。
たとえば、
- 預金利息
- 株式配当
- 債券利子
- 投資収益
などについて、公益信託内部では所得税が課されません。
また、通常であれば源泉徴収される利子・配当に係る源泉所得税についても非課税扱いとなります。
これは、公益目的に使われる財産については、内部で課税せず公益活動に資金を回すという政策的配慮によるものです。
法人税の扱いはどう変わったのか
従来制度は「特定公益信託」だけ特別扱いだった
旧制度では、法人税法上、
- 特定公益信託
- それ以外の公益信託
で扱いが分かれていました。
特定公益信託については、
- 受益者課税の対象外
- 受託者にも課税しない
という整理がされていました。
一方、それ以外の公益信託については、委託者課税という複雑な整理が存在していました。
つまり、制度区分によって税務処理が異なっていたのです。
改正後は「公益信託」に一本化
今回の改正では、この複雑な区分整理が見直されました。
新制度では、公益信託は一括して、
- 受益者課税の対象外
- 受託者にも課税しない
という扱いになります。
つまり、
- 委託者段階
- 受託者段階
の双方で課税しない整理へ統一されたのです。
この結果、従来存在していた「特定公益信託以外」の特則規定は廃止されました。
なぜ整理統一が行われたのか
背景には、公益信託制度をより使いやすくする政策意図があります。
従来制度では、
- 制度理解が難しい
- 税務処理が複雑
- 実務負担が重い
- 利用者が限定される
という問題がありました。
特に資産家や企業が公益活動を行う際、
- 公益法人
- 財団法人
- 一般社団
- 信託
の比較で、公益信託は税務上の不透明さがネックになっていました。
今回の整理は、「公益目的で使う財産についてはシンプルな非課税体系へ寄せる」という方向性を示したものといえます。
受給者が給付を受けたときの課税関係
ここが今回の改正で最も重要な論点です。
個人受給者への課税は大きく変わった
従来は「贈与税」が中心だった
旧制度では、公益信託財産は実質的に委託者の財産とみなされていました。
そのため、個人受給者が給付を受ける場合、
- 委託者が個人 → 贈与税
- 委託者が法人 → 所得税
という整理でした。
ただし、
- 学資支給
- 災害義援金
など一定の公益給付については非課税とされていました。
改正後は「所得税課税」が基本へ
新制度では整理が大きく変わります。
公益信託から受ける給付財産については、
- 贈与税は非課税
- 原則として所得税課税
へ一本化されました。
つまり、
「贈与税ではなく所得税で処理する」
という方向へ変更されたのです。
これは実務上かなり大きな転換です。
なぜ所得税へ整理したのか
背景には、公益信託給付の性質があります。
公益信託の給付は、
- 奨学金
- 助成金
- 支援金
- 活動援助
など、一定の公益目的に基づく給付です。
これを一般的な「贈与」と整理すると、
- 高額贈与税問題
- 公益支援との不整合
- 制度利用萎縮
が生じやすくなります。
そのため、
「公益的給付は所得課税で整理する」
という方向へ制度整理されたと考えられます。
学資や災害支援は引き続き非課税
もっとも、すべてが課税されるわけではありません。
従来同様、
- 学資支給
- 災害義援金
- 法令上の非課税給付
などについては、所得税非課税が維持されます。
つまり、
- 一般給付 → 所得税課税
- 公益性が極めて強い給付 → 非課税
という整理になります。
法人が受給する場合
受給者が法人の場合は、従来と大きくは変わりません。
公益信託からの給付金は法人税の対象になります。
ただし、公益法人等については、
- 収益事業に該当しない部分
について法人税は課されません。
つまり、
- 一般法人
- 公益法人等
で引き続き取扱いが異なる点には注意が必要です。
今後実務で重要になるポイント
今後は以下の論点が重要になります。
給付の所得区分
- 一時所得か
- 雑所得か
- 非課税所得か
の整理が重要になります。
公益性判定
どこまでが「公益目的給付」に該当するのかという判断も重要になります。
特に、
- 特定個人への継続給付
- 親族関係
- 実質的利益供与
などは今後の実務論点になり得ます。
公益法人との使い分け
今後は、
- 公益法人
- 一般財団
- 公益信託
の比較検討がさらに進むと考えられます。
特に、
- 設立コスト
- ガバナンス
- 税務
- 継続性
- 柔軟性
の観点で使い分けが進む可能性があります。
結論
今回の公益信託制度改正では、税務上の整理が大幅に簡素化されました。
特に重要なのは、
- 信託期間中は原則非課税
- 委託者・受託者段階では課税しない
- 個人受給者への給付は「贈与税」から「所得税」へ整理変更
という点です。
これは単なる税務テクニカルな変更ではなく、
「公益活動を促進するための制度再設計」
という意味合いを持っています。
今後は、
- 個人資産の社会還元
- 富裕層寄付
- 地域支援
- 民間公益活動
の拡大とともに、公益信託制度の活用が増えていく可能性があります。
その際、税務の理解は制度活用の前提条件となるため、今後の政省令・通達・Q&Aの整備にも注目が必要です。
参考
・税のしるべ 2026年5月4日
「100年ぶりの抜本改正 新しい公益信託制度と税制 第5回/信託期間中及び受給したときの課税関係」
㈱野村資産承継研究所 主任研究員 小松原稔通(税理士)
・所得税法
・法人税法
・相続税法
・公益信託法改正関係資料