子ども・子育て支援金制度の導入により、企業は新たなコスト負担を求められることになります。被用者保険では、支援金の半分を企業が負担する仕組みであるため、人件費に直接的な影響が生じます。
問題は、この負担を企業がどこまで吸収すべきかという点です。本稿では、単なるコスト論ではなく、人件費戦略としてどのように捉えるべきかを整理します。
負担増の正体は「見えにくい人件費」
子ども・子育て支援金は、給与とは別枠で徴収されるため、企業にとっては「追加の法定コスト」として認識されます。
しかし実態としては、
・企業負担分は人件費の一部
・賃上げと同様に総額人件費を押し上げる要因
であり、性質としては賃金に近いものです。
つまり、この制度は「見えにくい人件費の増加」として捉える必要があります。
3つの対応パターン
企業の対応は大きく3つに分かれます。
① 企業が吸収する
企業が負担増をそのまま吸収するケースです。
・従業員の手取りを維持
・採用・定着へのプラス効果
・企業負担は増加
人材確保を重視する企業にとっては合理的な選択ですが、利益を圧迫する要因となります。
② 従業員に転嫁する
昇給抑制や賞与調整などにより、実質的に従業員へ転嫁するケースです。
・企業負担を抑制
・従業員の手取りは減少
・モチベーション低下のリスク
短期的には有効ですが、人材流出リスクを伴います。
③ 折半的に調整する
企業と従業員双方で負担を分け合う形です。
・賃上げの抑制と企業負担のバランス
・最も現実的な対応
多くの企業はこの中間的な対応に収束すると考えられます。
判断を左右する3つの軸
どの対応を取るべきかは、企業の状況によって異なります。
① 労働市場での立ち位置
人材獲得競争が激しい業界では、負担を企業が吸収するインセンティブが強くなります。
逆に、代替可能性が高い業種では、転嫁が起きやすくなります。
② 利益構造
高収益企業は吸収余力がありますが、低収益企業では転嫁せざるを得ません。
特に中小企業では、制度負担がそのまま経営リスクに直結するケースもあります。
③ 人件費の位置づけ
人件費を「コスト」と見るか「投資」と見るかによって判断は大きく変わります。
・コストと捉える企業 → 転嫁志向
・投資と捉える企業 → 吸収志向
この思想の違いが、長期的な人材戦略の差につながります。
見落とされがちな「間接的メリット」
この制度には、企業にとっての間接的メリットも存在します。
・育児離職の減少
・時短勤務の活用促進
・人材の長期定着
特に人手不足が深刻な環境では、これらの効果は無視できません。
単純なコスト増ではなく、「人材維持コストの一部」として捉える視点が重要です。
人件費戦略としての再設計
制度対応を単発のコスト処理で終わらせるか、戦略として組み込むかが分岐点になります。
具体的には、
・総額人件費の再設計
・賃上げとの関係整理
・福利厚生とのバランス調整
といった見直しが必要になります。
特に重要なのは、「見える給与」と「見えない負担」を一体として管理することです。
今後のリスクと不確実性
支援金率は段階的に引き上げられる予定であり、将来的な負担増は避けられません。
また、
・他の社会保険料の上昇
・最低賃金の引き上げ
・人材確保コストの上昇
これらと重なることで、人件費は複合的に増加していきます。
単一制度ではなく、「人件費全体のトレンド」として捉える必要があります。
結論
子ども・子育て支援金制度は、企業に新たなコスト負担をもたらす一方で、人材戦略と密接に関係する制度です。
企業が取るべき対応は一律ではなく、
・自社の競争環境
・利益構造
・人材戦略
を踏まえて判断する必要があります。
重要なのは、この制度を単なる負担として処理するのではなく、「人件費戦略の一部」として再設計することです。
制度対応のあり方が、そのまま企業の人材競争力を左右する時代に入っています。
参考
企業実務 2026年4月号
子ども・子育て支援金制度にまつわる実務Q&A
毎熊社会保険労務士事務所 毎熊典子
2026年3月5日時点の法令等に基づく構成